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 お父様はずっと過去に囚われている。

 昔、お父様に一人息子がいたことも、その息子がサッカーをしていたことも、その息子がヒロトに似ていることも、ジェネシスのキャプテンだった私は既に知っていた。息子の復讐のためにサッカーを道具として使っているお父様には、目の前なんて見えていない。きっと、その息子が好きだったサッカーは、道具などではなかったはずなのに。



「……きっと、長い道のりにはなる。苦しくて辛い戦いになって……対立するかもしれない。でも……皆の心を変えるには、お父様が昔の優しいお父様に戻るためには、彼らの力が必要だと思う」



 雷門を巻き込むことになるのは、深い罪悪感があった。本当はこんなことに巻き込みたくなんてない。
 だが、これまで見てきたチームの中で、こんなにあたたかくて眩しくて、サッカーのことを大切にしているチームに出会ったのは初めてだった。

 彼らは昔の記憶を強く揺さぶった。鳥籠の中のように、揺蕩うような幸せに包まれていたあの頃の記憶。



 私一人の力では、きっとお父様のことも家族のことも変えられない。でも、みんなと――雷門のみんなと一緒ならば、あるいは。



『……貴方が、そこまで言うなんてね』



 瞳子姉は私の話を聞き、そしてぽつりと一言だけそう漏らした。

 確かに、私が他人に対してここまで入れ込むことは稀だ。それこそ、お日さま園のみんなくらい。でも、雷門は――守は、私がどうしても欲しくて、でも手に入れられなかったものを持っているから。

 瞳子姉の言葉に、私は思わず自嘲するように呟いた。



「……これは、私の願望かもしれないけど」
『……、A?』
「……私はこれから間違いなく…………ヒロトたちと、戦うことになる。もし、彼らを打ち負かすのであれば、それは雷門のような、あたたかいチームであって欲しいから、さ」



 彼らと戦うための逃亡であり、罰であり、これからの贖罪であるのだけれど。
 きっと私にとってとても苦しい時間になるだろうと、漠然と、しかし確信に近い思いを抱いていた。その時に雷門のみんなが隣にいてくれたら…きっと。



 瞳子姉はヒロト、という言葉に反応したような微かに空気を揺らした。久しぶりにその名前を私が口にしたからだろう。だが言及されることはなかった。
 

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彩夏(プロフ) - Aoiさん» 大変かと思いますが応援しています! (2022年9月11日 10時) (レス) @page24 id: 67c757144e (このIDを非表示/違反報告)
Aoi(プロフ) - 彩夏さん» 彩夏さま コメントありがとうございます。とても嬉しいです。本当にいよいよというところで、私も楽しみですしわくわくしています……。お待ちいただきありがとうございます。どうぞお楽しみにお待ちください。 (2022年9月11日 0時) (レス) id: f51011eb5a (このIDを非表示/違反報告)
彩夏(プロフ) - いよいよですね!展開が楽しみです! (2022年9月10日 23時) (レス) id: 67c757144e (このIDを非表示/違反報告)
Aoi(プロフ) - ヒマリさん» ヒマリさま 長い間ご覧いただき、そして応援してくださり、本当にありがとうございます。拙い文章ですがお楽しみいただけたら幸いです。随時更新していきますので、どうぞお楽しみにお待ちくださいませ。 (2022年7月15日 20時) (レス) id: 0783a9abb5 (このIDを非表示/違反報告)
ヒマリ(プロフ) - 続編おめでとうございます。ずっと前から応援していた作品なのでとても嬉しいです。これからゆっくり読み直しにいこうと思います。これからも応援していますので、作者様のペースで更新して頂けますと幸いです。 (2022年7月15日 20時) (レス) id: ba87716a36 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Aoi | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aika398/  
作成日時:2022年7月3日 2時

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