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「……、きど」
「少し、一人にしてくれないか」
彼は私に背を向けると、ぼそりとそれだけ言った。寂し気な背中が徐々に遠ざかっていく。
名前も呼べない。
顔も見れない。
声を掛けることすらも出来ない。
お前のことをこれ以上傷つけたくないんだ。彼があまりにも悲しそうな声でそんなことを言うので、私は引き下がることしかできなくて。何をすることも出来ない自分が嫌になる。
私じゃ彼は救えないと言われているかのようで、心底自分に腹が立った。
“貴方は、救世主の称号を捨てたのよ”
酷く耳障りな声が囁く。ああ、煩いなあ。黙ってくれよと耳を塞いだ。
そんなことは分かっている。“彼拠”から逃げたときにすべて捨ててしまったのは、自分が一番理解していた。
だが、それでも私は救世主だった。傷ついているヒトが居たら手を伸ばして、どうしても助けたくなってしまう性分だった。
彼を助けることは出来ないのだろうか。このまま遠ざかる彼を見ているだけで、本当に良いのだろうか?
声は何も答えない。彼を止めることは出来ないまま、私も動くことは出来ないまま。
だが彼の姿が消えるまで静かに見守ることも出来ず、待ってと手を伸ばした。しかし声は上手く出てこない。結局何も言えないままに、彼のマントは出口の向こうへ消えていく。
思わず溜息を吐いて、伸ばしていた手を静かに下ろす。
心に燻ぶりを抱えながら、緩やかに夕闇に染まっていく空を見ていた。いつもは綺麗に見える筈のその空は、今日だけは少し濁って見えた。
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第16章にほんの少し修正を加えました。
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碧(プロフ) - わたぐもさん» わたぐもさま ありがとうございます。長らくお待たせいたしました。今後ともお楽しみいただければ幸いです。 (2022年7月2日 22時) (レス) id: 555a0dca31 (このIDを非表示/違反報告)
わたぐも(プロフ) - とっても好きな作品なので、再開凄く嬉しいです…! (2022年7月1日 23時) (レス) @page43 id: 5d152484ae (このIDを非表示/違反報告)
鱗川 - ゆっくりで良いので頑張ってください! (2022年3月25日 1時) (レス) @page40 id: d49fa68ddd (このIDを非表示/違反報告)
moeka(プロフ) - 最近更新がなくて寂しいです。更新してくれると嬉しいです。待ってます。 (2020年2月27日 14時) (レス) id: d61ed9781e (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 更新再開するんですね...!ずっと待っていました!この作品の夢主ちゃん可愛いし、性格も大好きで憧れなんです。これからの更新楽しみにしています! (2019年3月4日 5時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Aoi | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aika398/
作成日時:2017年11月8日 23時