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其の伍 探偵達の談話 ページ6

暫く国木田の思考が止まる。敦が声を掛けると、心を沈める様に眼鏡のずれを直す。

「聞いた事が無いぞ、そんな事。若し本当だったら如何する……否、如何するも何も無いが……少なくとも一度、話をせねばなるまい」

眉間に此れでもかと皺を寄せ乍ら、国木田は敦に言い聞かせた。

「いいか、敦。此の事は未だ誰にも云うんじゃないぞ。少なくとも、あの唐変木には絶対だ」
「わ、分かりました……」

国木田に気押され乍らも、敦は頷く。
其れを確認すると、国木田は深い溜息を吐き、『武装探偵社』と記された扉を漸く開けた。

そして何事も無かったかの様に業務に戻る──筈だった。

ドアノブがぐんと引かれる。扉の先には、にこにこ、否、にやにやとした顔を隠す事の無い男がいた。

黒い蓬髪の、砂色の外套(コオト)を身に纏い、首や手首から包帯を覗かせた長身痩躯の男。

「ふふ、ふふふふふ。随分と面白そうな話をしているじゃあないか、国木ィ田君」

まるでハートマークが付きそうな声で、私も混ぜておくれよ、と国木田に擦り寄っていく。

「ええぃ、喧しい!!何故聞いていたのだ!!太宰!!」

お前だけには知られたく無かったのに、と国木田は顔を顰める。

太宰と呼ばれた男は笑みを崩す事なく、

「だって〜面白そうな話をしていたから、訊かなければ損だろう?」

と悪びれる様子もなく云い切る。敦は如何しようもなくあたふたするしか無い。

二人の──国木田の大声を訊いて、社員が集まって来る。誰にも云わないどころか、全員に知れ渡ってしまった。







「……成程ね、国木田君が唸るわけだ。真逆“美妙”に弟君がいたとは……じゃあ私の義弟って事かな!?」
「何が義弟だ。毎度心中を断られているだろうが」

両頬に手を付き椅子の上でくねくねする太宰を国木田が一蹴する。

「ま、まぁまぁ。真偽はともかく、美妙ちゃんには知らせておいた方が良いのでは……?」
「そうだねェ、じゃあ敦君頼むよ。私が行ってもほら話と捉えられそうだ」
「日頃の行いだろう」
「ははは……」

敦は最早笑うしか無い。

「敦、今日は行けるか?」
「はい、大丈夫です」
「よし、この事はお前に任せる。何かあれば連絡しろ」
「はい!」

頑張ってねェ、と手を振って、机の上の書類の山を気にもせず居眠りしようとする太宰と、そんな太宰に雷を落とそうとする国木田を見て、敦は苦笑いを浮かべる。

そして、自分の仕事に取り掛かった。

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作者名:耐熱ガラス | 作成日時:2020年3月15日 17時

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