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其の拾伍 邂逅 ページ16

扉を開けるとドアベルの無機質な音と古い紙の独特の匂いが一郎達を出迎えた。

店内は一郎の背丈を超える高さの書架が何列も並んでいる。そのどれもが容量一杯に本を抱え込んでいる。奥にはカウンターと、その周りには二人の人が見える。

一人はカウンターの前の丸椅子に座っている。昨日話を訊いてくれた少年。
もう一人はカウンターの奥に座っている。件の女性であった。
女性はこちらを見るとゆったりと立ち上がった。

「ようこそ、明暗古書堂へ」

凛とした声でそう言った女は、カウンター前の丸椅子を指して着席を促した。
全員が座った事を確認すると、女が言う。

「私が店主(オーナー)の夏目美妙です。どうぞ宜しく」
「あ、はい。よろしくお願いします。俺は山田一郎です」
「お、俺は二郎」
「僕は三郎です」

一郎の自己紹介を皮切りに他二人も名乗りをあげる。

「敦も、名乗った方がいいんじゃない?」
「うえっ!?あ、うん。中島敦です」
「昨日はどうもありがとうございました」
「いえ、いいンです!僕は特に何もしていないので」

そんな事はない、と一郎は思う。少なくともこの古書店に辿り着けたのは敦のお陰だ。そう言おうと一郎が口を開くと同時に、カウンターの後ろにある引き戸が開かれた。

出て来たのは金髪碧眼で水色のワンピースの上に白いエプロンを掛けた、和風の内装に似つかない風貌の女性であった。

「お茶よ。貴方達、銅鑼焼きは好きかしら?」
「は、はい!好きです」

そう、とそれだけ言うと女はカウンターに人数分の茶と銅鑼焼きを置いてすぐに戻って行ってしまった。

「あの、今の人は……?」
「嗚呼、彼女はうちの店員なの」

気になるならと呼び戻そうとする美妙を慌てて止める。ここは店なのだから、店員がいる事も考えれば分かるのに。あの店員の風貌と店のミスマッチ具合に気を取られてしまった。一郎は少し恥ずかしくなった。

却説(さて)、本題に入りましょうか」

そんな心境を知ってか知らずか、美妙が話を切り出した。

「先ずは貴方達の“尋ね人”の捜索についてだけど──」

不意に店の扉が開く。三兄弟が振り返ると、赤い着物を着た少女がいた。

(たしか、探偵社にいた…)

一郎は回想する。野次馬の一人だった筈だ。
少女は真っ直ぐ一郎に向かった。そして鍵を差し出した。

「これ、落とし物」
「あ、どうも」

(いつ落としたんだろう)

落としたら音が鳴るだろうにと訝しむが、その思考は少女の声で消えた。

其の拾陸 蜘蛛の糸→←其の拾肆 訪来



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作者名:耐熱ガラス | 作成日時:2020年3月15日 17時

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