其の拾参 時間外れの客 ページ14
──時は遡り、前日酉の下刻
明暗古書堂はとうに店仕舞いをしていた。外に出していた可動式の荷台は店の中へ仕舞い込まれていて、出窓の
扉は施錠されていなかったが、架けられた小さな看板には『closed』の文字がある。本来なら誰も入らないであろう店に、一人の客が訪れた。
「やあ！！お客様の御来店だよ！！私もお茶と饅頭が欲しいなァ！！」
礼儀を気にする素振りもせず、客が叫ぶ。やがて厭そうな顔をしながら店主が顔を出した。
「
「酷い！敦君には出してたのに！！」
客──太宰は帰ろうとせず丸椅子に座る。
「御煎餅でもいいよ」
更には茶と菓子の催促ときた。
「……チッ」
「舌打ち！？」
店主──美妙は嫌悪感を隠す事なく勘定台の椅子に座る。お茶は？と云う太宰を他所に右手を太宰に差し出す。
「どうぞ」
其れだけ云うと、何も無かった筈の掌に淡い深緑色の光が現れた。光は一つに集まると“蝶”へと変化した。蝶は二、三回羽を羽搏かせると、太宰の元へ向かった。
「有り難う」
太宰の掌に止まった蝶は、水色の光に包まれた後、黒い機器へと変化した。
「盗聴するくらいなら御自分で訊きに来て下さい」
「いやぁつい気になっちゃって」
機器は盗聴器であった。太宰は敦に盗聴器を仕掛け、美妙は盗聴器を“蝶”へと変え回収していた。
なお、敦は何も気付いていない。
「其れにしても、随分と隠し通せる自信があるじゃあないか。恐らく明日には此処へ辿り着くだろう」
良いのかい？と美妙の表情を伺う様に太宰が問う。
「訊きたい事があるなら単刀直入にどうぞ」
「全く、そう云う処〜！」
「用がないなら帰れ」
やれやれと溜息を吐くと太宰は飄々とした雰囲気を消した。
「君、弟に異能を使ったね？」
「……」
「君の異能は至って
確認する様に美妙を見る。
「……気持ち悪いですね」
「え、酷い」
「奪ったのは私の異能と名前についての記憶。名前が判らず姿も余り覚えて無いでしょうから、誤魔化しは効くかと」
淡々と美妙が答える。
「私も余り人の事云えないけど、中々酷な事するよね。当時何歳？」
「13」
「うわぁ」
──そう云うわけで、事前に事を知っていた太宰は一郎に確認したのであった。
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作者名：耐熱ガラス | 作成日時：2020年3月15日 17時
