花笑みのきみ (ページ8)

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3　笑い上戸ページ8

どこからか小鳥のさえずりが聞こえてくる。

さやさやと爽やかな風がそよいでくる。

なんともいえない和やかな時間。

あまりにも平和で
美しすぎるこのひととき。

ここだけ
世間とは別の時間が
ゆったりと流れているかのようだ。

智三郎は
満足げに大きくひとつ頷いて

「ま、考えても分かんねえもんは放っといて
おさらいの続きをしよう。」

少女に向かってそう言った。

「もう途中でぼんやりしてはいけないよ。
分かったね、みやび？」

『みやび』･･

『みやび』とは、この少女の名前。

智三郎に『みやび』と呼ばれたその少女は
ニッコリと微笑んだ。

そして
琴の方に座りなおすと

象牙の琴爪で

しゃらりん‥

と軽やかに弾き始めた。

・

・

みやびが奏でる琴の音が
澄み切った青空に吸い込まれていく。

心地よい風が
庭木の鮮やかな緑の若葉を揺らし

眩しい光が
開放的な座敷いっぱいに降り注いでいる。

その眩しい陽光を受け
化粧っ気のないみやびの柔らかな頬の産毛が
キラキラと輝く。

(あぁ、本当にこの子は可愛らしい子だよ･･)

智三郎は
心の中だけでそう呟き
愛おしそうに目を細めた。

・

,゜。+゜,゜。+゜･･ｼｬﾝ･･♪

と、曲を弾き終えると
つっかえることなく弾けたのが嬉しかったのだろう
みやびは
ぱぁっと頬を紅潮させて
智三郎を振り返った。

一言
(上手だよ)とか(よく練習したね)とか
褒めてもらえると思ったのだが
智三郎は
脇息にもたれ目をつぶったまま
何も言わない。

「････。」

指先にはめた琴爪をモジモジ弄びながら
智三郎からの一言を待っているみやび。
そのさまは
まるで子犬がおあずけをくらって
きゅ～ん･･、と鼻を鳴らしているよう。

パチ、と片目だけ開けた智三郎は
そのみやびの姿がなんとも言えず可愛らしくて
つい、ぷっと吹き出してしまった。

そうなったらもう止まらない。
笑い上戸の智三郎は
「ぷっ、･･くっくっく･･」
と
肩を揺らして笑い出した。

「もぉ、お父様ったら笑うなんてひどい！」

顔を真っ赤にして
みやびはプンスカ抗議したが

「ご･･、ごめん、ごめん。･･うふふ♪」

それでも智三郎は笑い続けている。

ぷうっとほっぺたを膨らませて
むくれるみやびが
これまた、可愛くて可愛くて･･

とうとう智三郎は
あはは
と本格的に笑い出し
青畳にごろんと寝っ転がってしまった。