33 怒髪天の勢い ページ38
「みやびに何しやがったっ！！」
二宮は
動けない男の頭めがけて
ガツンッ！！
頭突きをくらわしてやった。
ぐおぉっ！！
獣の咆哮のように呻き声を上げ
男は
頭を抱えて汚い畳の上にもんどり打って倒れた。
そのすぐ横で
枯れ枝のように痩せた婆さんが
ひいっと悲鳴を上げたが
二宮は
その婆ぁにはかまわず
意識を失いぐったりしている少女を抱え起こした。
真っ青な顔色で固く目をつぶっているが
確かにこの子は
大事な大事なみやびだ。
「みやびっ！」
二宮は
叫びながらギュッと抱きしめたが
みやびは
まだ気を失ったまま。
みやびの白い太ももの上の方
脚の付け根近くまで
着物の裾が乱れてまくれ上がっている。
二宮は
唇を噛みしめながらその裾を手早く直してやった。
直しながら
「･･てめぇ、今、みやびの脚を触ってたよな･･？」
地の底を這うような低い声で
二宮が凄んでみせると
まだ
自分の額を押さえて突っ伏していた男が
「あいてて･･」
と言いながら
ゆるゆると上半身を起き上がった。
その男の背中に向かって
「その汚え指で、みやびに触りやがって･･
その指
俺が斬り飛ばしてやるから動くんじゃねえ！」
火を噴くような激しさで怒鳴りつけた二宮は
みやびをその腕の中で抱えながら
畳の上に落ちていた小柄を素早く取り上げ逆手に構えた。
単なる威しではないことは
二宮の血走った目と
斬りかかっていくことに何の迷いもない隙のない構えを見れば分かる。
「叩っ斬ってやるっ！！」
びりっと空気を振るわせるような
気迫のこもった二宮の声。
その声にかぶせるように
「二宮先生、ちょっ、ちょっと待った！」
額を押さえたままの男が叫ぶと
ガバッとその場に正座してひれ伏した。
「･･ぬ？」
怪しい奴と思っていた相手から名前を呼ばれ
思わず動きを止めてしまった二宮。
その二宮に
「二宮先生には
この前の舞台でそりゃあ良い脚本を書いていただきまして
ありがとうございました。」
ひれ伏したまま
よく通る声で口上を述べるその男。
二宮はその男の声に聞き覚えがあった。
「その声は･･、お前ぇ、潤之進･･か？」
二宮が小柄を構えたままで
そう呟くと
男は
畳に手をついたまま
スッと顔を上げた。
さっきの強烈な頭突で額は赤くなってはいたが
凜とした涼やかな瞳は誰が見ても見間違えるはずがない
さすがは押しも押されぬ人気役者の松本潤之進
二宮を見て
ニッと笑ったのはさすがである。
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作者名：はっしー
作成日時：2018年5月16日 0時
