11 手練手管 ページ16
さてさて･･
遠い昔の思い出話はこれくらいにして
もう一度
大野屋本宅の座敷に話を戻しましょうか。
こちらでは
八代目高尾が
いまだ切れ長の美しい目を
ピリピリ吊り上げて
智三郎とにらめっこよろしく対峙してますよ〜。
・
・
「親と死に別れたみなしごを手元に引き取り
大切に大切に
掌中の珠のように育てなすったのは
ホンに尊いものでありんす･･。」
と言う八代目の声は
低く静かで落ち着いているのだが
だからこそ余計にコワイ！
言葉通りにとるなら
八代目は
『善行しなすった』と褒めているのだろうが
智三郎は全然まったく褒められてる気がしなかった。
居心地悪そうな顔して
自分のほっぺたをポリポリ掻いてたら
八代目は
ここで
す･･っと視線を下に落とした。
何も言わず
ちょっと、目を伏せるその仕草･･。
ただそれだけなのに
他には何もしていないのに
智三郎の目は
八代目にくぎ付けだ。
怒りに燃えて爛々と光っていた瞳を
長いまつげを震わせて隠し
儚げに俯く八代目の首筋から肩にかけての優美な線からは
得も言われぬ色気が
目には見えないけれど
ダーッと溢れてくるようだ。
思わず、ごくりと生唾を飲み込んでしまう智三郎。
遊女なんぞ見慣れたはずの智三郎でさえこうなのだから
八代目にかかったら
世の男どもなど
簡単にコロッと参ってしまうだろう。
智三郎の視線を十分に引きつけておいてから
八代目は
細い肩をほんの少しすくめ
頼りなげに、ゆらり‥と首をかしげてから
ふ･･
と、甘やかな吐息をもらす。
しっとりと匂い立つような
甘い甘い濃密な吐息に
智三郎は、くら･･っと眩暈を覚えた。
クラクラと目を軽く回しながら
ははぁ〜
こうやって男たちを堕としてゆくのか‥
と
妙に感心した次の瞬間
ギンッッ！！！
と
八代目に下から睨みつけられた。
そのまなざし！
まるで鋭い刀の切っ先そのもの！
あまりに鋭いそのひとにらみで
智三郎はギクッとすくみ上がった。
居合の達人に
脇腹から肩先に向かって
斜めにバッサリ斬られた気分で
腹の底からぶるっと震えてくる。
一瞬で
智三郎を気迫で圧倒した八代目が
瞬きもせず
ずいっと前に身を乗り出しこう言った。
「尊いとは思うけど
わっちには
主さんと二宮の先生が二人して
みやびの、いいや、雅紀っていう男の子の人生を
オモチャにしてるようにしか見えないざんす。」
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作者名：はっしー
作成日時：2018年5月16日 0時
