好き以上、愛してる未満。 (ページ35)

今日:8 hit、昨日:1 hit、合計:108,126 hit

29 ページ35

.

久しぶりに入ったゆとくんのお家。

懐かしくて、何も変わっていない。

「、わっ、......あり、がとう」

『いーえ、』

ゆとくんは私を椅子の上に座らせると、
雨で濡れた髪を柔らかいタオルで拭いてくれる。

タオルからはゆとくんの匂いがして
たまらなく泣きたくなった。

「...ねぇ、ゆとくん」

『んー？』

「私と、...龍斗、ち、
.........血が、繋がってないんだって」

思い出したくない、言いたくない、と
絞り出すように声を出すと

一瞬、ゆとくんの手の動きが止まって
また動き出した。

『...そっか、』

「え、...驚かないの？」

『...俺、知ってたから』

上から降ってくる優しい声にのせられた
その言葉に驚いて振り向くと
ゆとくんは私をじっと見つめた。

『......Aが中学一年生の夏、偶然聞いちゃったんだ。Aの両親がAを養子として引き取った事。...その時龍斗も偶然聞いてて...。Aの両親からは口止めされてたんだ。"Aが20歳になったら話すから"って』

「...そ、うだったんだ」

ずっと隠されていた事。

私は何も聞いていたかった事。

嘘だと思っていた事は真実で、とてもショックだった。

でも、お父さんとお母さんが"20歳になったら話すから"と言っていた事。

私も馬鹿ではないから、二人が私の事をちゃんと考えていた事は伝わってきた。

混乱させないようにしてくれたんだね。

私がしっかりと"大人"として理解出来る時に話そうとしてくれてんだね。

『...ふっ、うぅ...っ、
お父、さんっ、つ、お母さ、...』

涙が溢れた。

私は自分が知らない中でも
しっかりと愛されていた。

「っ、...ゆと、くん」

『ん、』

ゆとくんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。

とくんとくん。

ゆとくんの規則正しい心臓の音、温もり、

全てを感じた。

「ゆとくん、」

『なあに』

「...ありがとう」

言わないでくれて、

私を、守ってくれてありがとう。

『いーえ』

いつもと変わらない、通常運転のゆとくん。

それが、私には心地よかった。

.