48日目。前半 ページ3
ある日の日暮れ時。
イルミは、情報屋の前で、暫くぼんやりとしていた。
今日殺したのは女で、ああ、目元がなんとなくあの女に似ているな、と考えているうちにここに来てしまっていた。
薄暗く寒い空気の中で、イルミはそっと針を取り出す。
もう依頼は来ていないけれど、いっそあいつのことも本当に殺してやろうか。そうしたら楽になれるかもしれない。
そう、昨日だって似たようなことを考えた。
殺そうと思えば殺せたし、そんなことに躊躇いを感じることは無かったのに、不思議と手が動かない。
殺してしまいたいと思うのに、どこかで無くなったはずの良心が己を止めているのだろうか。そこまで考えて、俺は自分の考えを嘲笑った。
良心って。なにそれ。そんなものが俺に残ってる訳がない。
大体すべて無意識なんだ。何も可哀想だと思って手加減している訳ではない。
腕を逆方向に曲げた時も、折る寸前で止めた。なんとなく手を掴んだ時も、随分と力を加減した。針を投げても、本気で当てようとしたことはない。
いつもそこで何となく満足してしまって、なんとなくやめるのだ。
一体何に満足しているんだろう。この充足感は何だろう。しかし俺はあの情報屋が苦手だから、おそらくこの先、この問いの答えが出ることはない。
――嘘だ。心の奥では彼女に対するこれがマイナスの感情で無いことを分かっている。
しかし、これ以上知るのはまずい。絶対にまずい。暗殺者にそんなものは要らない。
だというのに、扉の中から聞こえてくる
「やばい、指紋認証の設定方法分かんね、完全に詰んだわ、ヒソカさんの指紋消せないじゃん」
なんていう能天気な声を聞いていたら悩んでいるのがどうでもよくなってしまって、思わず中にいる情報屋に声をかけそうになってしまう。
「はあん?なんか設定できたっぽい?そういや今日イルミ来ないなあ、そろそろ閉店にしようかなあ」
……あーあ。
暗殺者としての警鐘なんて大したことない。
俺は今日何度目か分からない溜息を吐きつつ、それでも少し穏やかな気持ちで店の扉を開けた。
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バナナ - とっても最高でした!!有難うございます!!更新待ってます!! (2022年9月20日 2時) (レス) id: e7b90db1c1 (このIDを非表示/違反報告)
どらやき(プロフ) - 孤歌さん» ありがとうございます!面白いと言っていただけて嬉しいです……!これからもよろしくお願いします! (2018年7月3日 23時) (レス) id: a2747e3aed (このIDを非表示/違反報告)
どらやき(プロフ) - みーたんさん» コメントありがとうございます!ぜひ続編でもお付き合いいただけると嬉しいです! (2018年7月3日 23時) (レス) id: a2747e3aed (このIDを非表示/違反報告)
孤歌(プロフ) - 初めまして凄く面白いですね!更新待ってます(゜∇^d)!! (2018年7月1日 15時) (レス) id: 5a595ce298 (このIDを非表示/違反報告)
みーたん - 一言で言うとやばすぎますね (2018年6月24日 20時) (レス) id: 46104a2fe8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:どらやき | 作成日時:2016年1月24日 18時