思い出の形2 ページ3
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焦凍は意を決して上機嫌に微笑む妹を見上げた。
「……A」
「なぁに?」
「それ…………、似合わねぇ。とっとと処分して新しいコート買った方がいいぞ」
緊張しながら思ったままを口にする。
それは妹のためを思って発した言葉だった。
似合う似合わない以前の問題に、それを着て出掛けるのはこの時代には不釣り合いだ。
「え……、似合わない……? このコート、私にはダメ……?」
「え?」
想像以上の落ち込みっぷりに焦凍は戸惑った。
嘘をついてでも似合うと言うべきだったのだろうか。
「……」
気まずくなって目線を逸らせば、Aの後ろにあるテレビの画面が目に入った。
CMが終わり、蕎麦の紹介の続きが流れはじめた。
(そうだ、店の場所……)
「ねぇ、このコートを見ても何も思わない?」
「悪ぃ、A。俺、テレビが見たいんだ。またあとで良いか?」
「テレビよりも私を見てよ!」
視界を遮るようにAは焦凍の前に出る。
番組を見たいのに邪魔をされて少し苛立つ。
半ば強引にAの体を押し退けて、テレビが見えるように視界から外した。
「古着屋で見つけて気に入ったのかもしれねーがやめとけ。その格好で街に出たら笑われるぞ」
「な……っ」
焦凍の言葉に、Aは衝撃を受けたように大きく目を見開く。
ぎゅっと口を引き結び、顔を伏せてふるふると体を震わせた。
「……本気で言ってるの?」
「?」
「古着屋で買ったって……」
「他に何があるんだ? そんな古くさいコート」
「……っ」
ぱっと顔を上げたAの瞳には涙が溜まっていた。
怒りと悲しみが入り交じった表情に焦凍は「言い過ぎた……」と己の失言を悔やんだ。
「いや……、そういうつもりじゃねーんだ。ただ──」
「もういい!! 焦凍なんて……──」
自分と同じ色を持った瞳から雫がこぼれて頬に伝った。
「────大っ嫌いっ!!」
共用スペースに響き渡るほどの大声で叫んだAは、出口へと走った。
「Aっ!」
その背中に向かって叫んだが、妹は振り返ることなく扉に手をかける。
「待っ────……」
後を追おうとしたが、寮の出口を塞ぐように氷が張り巡らされた。
こんなことをしても焦凍は簡単に溶かすことができる。
本人も分かっているだろう。
だからこれはAが示す拒絶の意志。
その冷たい意志を前に焦凍はただ立ち尽くしていた。
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文月 - 初めまして。すごく素敵な作品でここまで一気に読んでしまいました!!絵もすごく好きです!!! (2018年9月28日 11時) (レス) id: 14f4662f66 (このIDを非表示/違反報告)
瑠嘉 - リクエスト答えていただきありがとうございます。 (2018年9月16日 15時) (レス) id: efb6f4c834 (このIDを非表示/違反報告)
∞Aria∞(プロフ) - 絵のかっちゃん好きすぎる…夢主可愛すぎる…サイコー…… (2018年8月31日 20時) (レス) id: 77272a15db (このIDを非表示/違反報告)
舞華 - ほんっとうに絵がお上手ですね!羨ましいです! (2018年8月31日 0時) (レス) id: 388f25156a (このIDを非表示/違反報告)
瑠依(プロフ) - イラストが変わってるの凄く良いです!カーディガンのシチュも好きです!あとTwitterやってますか? (2018年8月31日 0時) (レス) id: d76a55fa5e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑪瑙 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時:2018年8月10日 21時