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Aが攫われたと聞いた時、この上なく腸が煮えくり返った。なに勝手に誘拐されてんだ。俺の前からいなくなるなんて許すわけねぇだろ。昨日の話だってまだ決着がついてねーんだ。ふざけんなよ。
犯人が誰であろうと、どんな理由であろうと俺からAを奪っていく奴は許さねぇ。ぶっ殺してやる。
コスチュームに着替える時間もずっとAを探し出す方法を考えていた。スマホに搭載されたGPSは……あてにならねぇ。Aのスマホは研究室に置かれていた。あれほど持ち歩いておけと釘を刺しておいたのに。
「クソ……ッ」
苛立ちをぶつけるようにスーツケースの蓋を閉めた。その時、取っ手の近くに揺れる鈴が目に入ってきた。
──『共鳴』といって、ペアの鈴に音を伝えることができるんです。
思い出したのは職業体験でのAの言葉。その時もアイツは誘拐されかけていた。人生で3回も誘拐事件に遭遇するなんて、ありえねぇだろ。
あの時はこの鈴があったからなんとか救出できた。でも今は──……
どんなに聴覚を研ぎすませても、もう鈴の音は聞こえない。聞こえていたとしても、音が拾える範囲にいないと意味がない。あの時は本当に運が良かっただけだ。
「聴覚、音……探る?」
★
「ええ!?八百万さんたちが乗ってきたプライベートジェットが!?」
「ええ。何者かに奪われたと……Aも心配ですけど、そっちも放っておけませんし……っ、ああ、どうしましょうっ」
「ヤオモモ、落ち着いて……ね」
医務室に戻るとクソデクたちが騒いでいた。トラブルがあったらしくポニーテールが取り乱していた。それを宥める耳たぶに特徴のある女の肩を掴み、こちらに向かせる。
「オイ」
「ちょ、ナニ爆豪っ、今いろいろ大変──」
「てめーこの音聞こえるか?」
「はあ?」
俺は鈴を耳女の前で揺らした。もちろん、俺には何の音も聞こえない。鈴を目にした女は眉を歪めて俺を見上げた。
「ウチの個性舐めてるの?もちろん聞こえるに決まってんじゃん。それがどうかした?」
そうだ、この女の利便性を忘れていた。索敵に関してはトップクラスの個性。この鈴の音が聞こえるこの女なら──……
「オイデク、Aはこの鈴を持ってたんだよなァ?」
「うん、キーケースに付けてつなぎのポケットに……」
「耳女。この鈴の共鳴先を探れ」
「……は?」
「そこにAはいる」
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作者名:瑪瑙 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時:2019年4月1日 22時