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俺は待機していた救急車にAを運び込み、隊員たちの処置を静かに見守っていた。
「あ、いたいた!ダイナマイトさん!まだ避難できていない人が残っているんです!ご協力をお願いします!!」
大学の実験場で起きた爆発事故。消火と避難は進んでいるが、逃げ後れた人間が建物内に残っているらしい。
Aを救急隊員とゴーグル女に任せて、救助の要請に応じるべく建物の中に向かった。
火は収まりつつあるが、崩れた壁が避難経路を塞いでいる。個性を使って邪魔な瓦礫を粉砕し、通り道を作った。
「これで通れんだろ、早く避難しろ!」
塞がれた通路の向こう側に逃げ後れた学生が見えたので避難を促す。ぽかんとしていた学生らは俺を見て口を開いた。
「だ……ダイナマイト!?」
「ヒーローダイナマイトだ!」
「なんでヒーローがここに!?」
「だァーーっ!!ごちゃごちゃ言ってねーでとっとと避難しやがれ!!」
この都市にいるはずのない”ヒーロー“を見て興奮している学生どもに一喝する。はっとした学生らは急いで避難を始めた。
「ダイナマイト!あ、あの……」
「……あ?」
「あ、ありがとうございます!」
学生の集団にいたうちの一人の女が俺の横を通り際にお礼を言い、頭を下げた。
「……」
救助者に礼を言われるなんて初めてだ。……いや、ここに来る前まではヴィランばかり相手にしていて、救助活動は他のモブヒーローに任せっきりだったから当然のことだ。俺はやりたいようにやっているだけだ。感謝の言葉が欲しいわけじゃない。
「……──チッ、調子狂うわ」
★
「お疲れ様です、ダイナマイトさん!」
「ああ」
「おかげ様で迅速に避難が完了しました」
「そうか」
「はい!」
「…………」
「ダイナマイトさん?」
「いや、なんでもねぇ」
Aは俺が救助活動をしている間に、怪我人と一緒に病院に運ばれていったらしい。ゴーグル女がついていたから大丈夫だとは思うが。
「んじゃ、俺はこれで──」
「ダイナマイトさん!申し訳ありませんが瓦礫の撤去の手伝いをしていただけると助かります!」
「あ?…………分かったよ」
Aの様子を見にいきたいってのに、余計なことを言いやがる。ああ、うぜぇ。内心舌打ちをしながらも俺は警官に了承の返事をした。
「助かります」
「場所はどこだ」
本当は突っぱねてやりたいが、ここに滞在する条件を思い出して気の進まない作業を引き受けた。
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作者名:瑪瑙 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時:2019年3月18日 22時