★★ ページ13
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「おい、A。起きろ、帰るぞ」
「んー……ぅ」
ダメ元で呼びかけたが反応は薄かった。これ以上は無駄だと諦め、Aを横抱きにして持ち上げた。
「あいかわらず小っせぇ体だな。ちゃんと飯を食ってんのかよ」
その言葉はAに向けたものだが、本人の耳には届いていないのでただの独り言に過ぎない。
「A……」
──あれからどうしてたんだ。
俺がもう会わないと告げてから、お前は何をして過ごしていたんだ。
怒っていると思っていた。憎まれても仕方がないと。もしくは思い出ごと忘れ去られているかもと。俺がそうしようとしたように。
唐突に付き合ってもいない男にキスなんてされたらどう思うか。嫌悪か、憎悪か、忘却か。きっと俺に対してのマイナスの感情が湧き出ていたのだろうと。
だから驚いた。ここへ来て、Aの私物であるコレクションを見て、ゴーグル女の話を聞いて。
こんなに離れていた場所でも俺を見ていてくれたことに。
「なあ、A」
聞きたいことが山ほどある。聞いてほしいことも。たくさん、たくさん。離れていた分、お前の声が聞きたい。お前のそばにいたい。
「──、────」
それはまた、目が覚めたら言おう。
★
研究室を出て大学の門へと向かう。そこを出て右に行けば駅があるとゴーグル女は言っていたな。
「……」
しかしここで俺は思った。寝ている女を連れて電車はまずい。改札とかどーすんだよ。だったらタクシーを拾って自宅前まで行くのが無難だろう。とりあえず住所を確認しようと思った。が……、
「…………あのメモ、どこやった?」
ゴーグル女に渡された紙がなくなっていた。捨ててはいないはず。だがポケットにしまった記憶はない。いつの間にか、本当にいつの間にかなくなっていた。あのゴーグル女を追いかけようとした時に手放した可能性が高い。
……と考えていても紙が出てくるはずはない。そもそも落としたであろう研究室は鍵が掛かっていて再び入室することは不可能。
「…………」
俺は考えた。いや、考えるまでもなくこの先の行動は一つしかないのだが。
「わざとじゃねぇ。これは不可抗力だ」
誰に言い聞かせるでもなく呟いて、俺はAを抱いたまま目の前にある宿泊先のホテルに向かった。
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作者名:瑪瑙 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時:2019年3月18日 22時