恋したことにも、気づけない【爆豪勝己】 (ページ8)

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　　★★「よろしくお願い致します」ページ8

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　半ば無理矢理に貼られた絆創膏。俺は絆創膏をつけている時に、粘着シートの端が皮膚に触れる感覚が嫌いだった。チクチクした感覚が気になってイライラするからだ。

　市販のものと変わりないと言っていたが、この絆創膏にはそれが感じられなかった。むしろ着け心地が良いとさえ思えた。

「そういえば、自己紹介がまだでしたわね」

　紅茶を飲んでいた女は、ティーカップを置いて背筋を伸ばした。絆創膏を見つめていた俺は顔を上げる。

「初めまして……──いえ、お目にかかるのは二度目なので“改めまして”……でしょうか」

　冗談めかした口調で前置きを口にした。

「私(わたくし)は百日紅(さるすべり) A、私立星麗(せいれい)学園高等部の一年生ですわ。よろしくお願い致します」
「……」
「あなたのお名前をお伺いしても？」
「必要ねぇだろ」
「え？」
「別によろしくするために来たんじゃねぇ」

　いつもの調子で口をついて出た。なんだ？調子が戻っている？今までは言ってやりたいと思っても、声にできなかったのに。

「あ……そうですか。そうですわよね、私が一方的に名乗っただけですし……申し訳ございません」
「……」

　目の前の女の表情が気落ちしたものになった。いつもの調子が戻ったというのに、ほんのわずかだけ湧き出た罪悪感。別にこの女が落ち込もうが悲しもうが、どうでもいい。ああ、心底どうでも良い。なのに。

「……爆豪勝己だ」
「はい？」
「爆豪、勝己」

　一度突っぱねたはずの己の名前を口にする。しかも、二回も。相手の耳に届くように言葉を切ってはっきりと発音していた。

　俺が名乗ったと理解した目の前の女は、しゅんとしていた表情を浮き上がらせて嬉しそうに笑った。

「はい。よろしくお願い致します。爆豪さん」

　ただ名前を呼ばれただけなのに。周囲の雑音なんてないかのように、その声だけが耳に届いた。頭の中で繰り返される。何度も。何度も。

　今まで感じていたものが少しだけ形を変えて、再び俺の心を支配しようとしていた。その正体はまだ掴めずにいる。

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