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  ★★「嘘なんてついていません」 ページ7

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「……は?」






 俺が間抜けな声を出して惚けている間に、注文した紅茶とコーラが運ばれてきていた。女は俺の驚きを意に介することなく、湯気が立つ紅茶に角砂糖を二つ入れてスプーンでかき混ぜていた。そのひとつひとつの動作をつい目で追ってしまう。


 ミルクは入れねぇんだな……と、そこではっと我に返った。まただ。なんでこの女の仕草をいちいち観察するような真似なんか……。





「オイ、マジで言ってんのか?嘘だったらマジで殺す」
「嘘なんてついていません」
「じゃあ、てめぇの個性はなんだ?」
(わたくし)の個性は……」


 女は手のひらを上にして俺の方に差し出してきた。握手を求められている、なんてこんな場面で普通は思わない。何が起こるのか、何をしようとしているのか。差し出された手を睨みながら待った。



「私の個性は“ものを作り出すこと”ですの」
「あ?」


 手のひらが光り、“何か”が産み出されるように現れた。その現象に既視感を覚えつつ、手の中のものを注視した。



「……なんだこれ?」
「絆創膏ですわ。どうぞ差し上げます」
「は?」


 馬鹿にしているのか。そう言おうとしたが、差し出す女の顔は真面目なものだった。女は自分の手の側面、小指の付け根から手首に沿って細い指を滑らせた。



「ここ、擦りむいてらっしゃいますよ」
「……」
「大丈夫です。普通に販売されているものと変わりありません」



 俺は市販されているものよりも大きくて細長い絆創膏を見つめた。傷口に合わせて作られている?



「あ、ご自分ではやりにくいですわね。僭越ながら私が貼らせて──」
「バ──、こんくらい自分でできるわっ!!」


 席を立とうとする女の手から絆創膏を奪った。授業でつけた擦り傷に貼ろうとして──、


「……あ、」
「あら」


 粘着シートがぐちゃっとくっついてしまい、使い物にならなくなってしまった。


「……」
「ですから私が貼って差し上げますと申し上げましたのに」
「……っ、こんくらいの怪我、何もつけんでも平気だわ!」
「ばい菌が入ったら大変ですわよ。ほら、動かないで下さい」


 女は新しい絆創膏を作り出して、手際よく俺の手に貼り付けた。指先が少し触れただけなのに、なぜか落ち着かない。





 やっぱり俺はどこかおかしい。


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作者名:瑪瑙 | 作成日時:2018年10月25日 0時

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