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  ★★「こんなの俺じゃねえ……ッ」 ページ40

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「見てください、10年前のオールマイトの映像ですわ」
「……ああ」


 俺は映像から目を逸らして頷いた。俺が……、俺が失わせてしまった。オールマイトを。平和の象徴を。人々から奪ってしまった──……。




「ご無事でよかったです」
「あ?」
「私が知ったのは何もかもが終わった後で……。だから何もできなくて。百は爆豪さんを助けにいったのに、私は……」
「何もできなかったわけじゃねえ。だっててめーは──……」


 敵に捕まった時、真っ先に思い浮かんだのはコイツの顔だった。何が何でも帰ってやると思った。こいつがいる場所に。


「爆豪さん?」
「……なんでもねえ。次いくぞ」







 俺とAは疲れきった表情を浮かべてヒーロー展を出た。人がまばらになり、空気が軽くなったのを感じながら、ふと視線を落とす。腕はまだ絡まったままだった。



「……ぁ!すみません……っ」


 腕を凝視する俺の視線に気づいたAは慌てて離れた。お互いになんだか気まずい空気が流れる。


「…………ちょっとトイレいってくるわ」
「あ、はい。ここでお待ちしてますわね」


 休憩用のソファーに腰掛けるAに背を向けて、俺はトイレに足を向けた。









「あーークソッ!なんだコレっ、こんなの俺じゃねえ……」


 誰もいないトイレで鏡に向かって呟く。自分さえ良ければそれでよかった。他人なんてただの踏み台だ。そう思っていたのに、あの女といると調子が狂う。


「はぁ〜〜〜〜……っ」


 もう分かりきっていることだ。誤魔化すこともできないほどに、俺はあいつに惚れている。






 俺が戻った時、Aは誰かと電話をしていた。こんな時に、いったい誰と。そう考えながらポケットに手を入れて歩いた。





「──はい。婚約の件ですか?」
「……っ!?」


 Aの口から出た言葉に俺は足を止め、咄嗟に手前の自販機に隠れた。


「まぁ、そうですか!ありがとうございます!ええ、嬉しいですわ。はい、お願いします。はい、はい。では失礼します」


 嬉しそうな声で受け答えして通話を終わらせる。『婚約』、『進める』、『嬉しい』、『お願いします』。その言葉が示す意味が分からないほど俺は馬鹿ではない。


「……っ、」




 なんで、なんでだ。なんでこんなタイミングで……。俺の中で何かが大きな音を立てて崩れていく。本当に欲しいものは、どんなに手を伸ばしても届かないと嘲るように。


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作者名:瑪瑙 | 作成日時:2018年10月25日 0時

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