逃走 ページ11
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久々の全力疾走にAは激しく肩を上下させていた。
歩くことも辛くなり、とうとう立ち止まって校舎の壁に手をついた。
「はァ……もう無理、しんど……っ」
日頃の運動不足がたたって足が重く、肺も痛い。
叔父に知られたら鍛えなおしてやると言われそうで怖い。
はっきり言って勘弁して欲しい。
しかし、そんなことよりもAの頭の中には気掛かりな事案あった。
(あう〜……思わず逃げてしまった……)
助け起こそうと手を伸ばす爆豪から逃げてしまったことだ。
(だって……)
名前を呼ばれてびっくりしたのだ。
クソ雪女やブラコン女など不名誉な呼ばれ方をされていたせいか、突然の名前呼びにこれ以上なく動揺した。
しかも切羽詰まったような声で、表情で──
(違う……、誰だってあんな場面に出くわせば焦るに決まってる……)
横暴に振る舞っているが、爆豪だって人間だ。
怪我をさせてしまったらと咄嗟に叫んだんだろう。
勘違いしてはいけない。
彼の口からはっきりと聞いたのだから。
──あのブラコン女が……、……好きなわけねぇだろ
(……っ、)
思い出してまた胸が痛くなる。
こんなことなら様子見なんて断れば良かった……。
工房に帰ろう。
そう思って重い足を動かし歩き出したが、自分が手ぶらであることに気づいた。
「あ……、癒月──」
──癒月ちゃんに借りたメモ帳、体育館に置いてきちゃった……と独り言を口にしようとした時、バンッと音を立てて顔の前にどでかい手榴弾が現れた。
「ひゃ……っ!?」
さすがにこれには驚いた。
──が、よく見ればそれは腕周りにデザインされたコスチュームの一部であった。
恐る恐るその持ち主へと視線を向ける。
「ば……爆豪君……っ」
Aの行く手を遮るように爆豪が右手を壁についていた。
その表情は険しいもので、鋭く射抜くような赤い瞳にAはたじろいだ。
「てめー……」
「……っ」
気を呑まれて一歩後ずされば、それ以上の後退を許さないと言わんばかりに右腕を掴まれた。
驚いたAの体は強張り、その反応に爆豪の目つきが更に鋭さを増した。
怖い──……
今まで爆豪に対して、こんな感情を抱いたことはなかったのに。
これは……幼い頃、焦凍の視線に感じたものと一緒だ。
──好きな人にそんな目で見て欲しくない。
そんな感情。
その視線から逃げたくてAは顔を俯かせた。
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来冠菜(プロフ) - 完結おめでとうございます!お互い片思いだと思ってるかっちゃんと妹ちゃんが可愛いです番外編もひたすら可愛いですんんん!!!更新頑張ってください!! (2018年6月14日 20時) (レス) id: 1227e26ad4 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば - パスワードはつけないでー!という意見に賛成!少しでも多く先生の作品を見たいのでおねがいします!! (2018年6月11日 21時) (レス) id: f11d3744b8 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - おぉ、同じ名前の人が……あ、そうそう…今回もまたまた面白いです!頑張って下さい!!!! (2018年6月10日 21時) (レス) id: cfdb26c000 (このIDを非表示/違反報告)
サヤカ - パスワードつけないでください〜〜 (2018年6月10日 19時) (レス) id: bdf11d6919 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - え!パスワードはつけないでください!見れなくなっちゃう!!_:(´ロ`」 ∠):_ (2018年6月9日 20時) (レス) id: 7ac5223945 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑪瑙 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時:2018年6月7日 21時