マタカリプ ページ3
？「なんで？」
アシ「この時期に肉が食えるのはマタカリプ ”冬 徘徊する もの” 冬ごもりしそこなって気性が荒くなってる危険な熊だ」
『その男性をどうするつもりですか？』
？「こいつはその…近くの村まで…」
アシ「やめておけ、その男はマタカリプの食いかけだ。熊は1度手に入れた獲物には物凄く執着する。獲物を奪われたらどこまでも追いかけて取り戻そうとする。凶暴なヒグマを村まで案内する気か？置いていけ」
？「それは出来ん この遺体は絶対ここに置いていけない」
アシ「その男はお前の家族か？友人か？そんなに大事な人間なのか」
？「いや、そういうわけでは……」
アシ「じゃあお前がマタカリプを撃てばいい 兵士なら戦え。もうすぐ真っ暗になる。今夜は雲があって月が顔を出さない。自分の手も見えなくなる。でもヒグマからはこちらが見えてるぞ
熊の夜討ちは危険すぎる。覚悟が無いなら早く立ち去った方が良い。弱い奴は食われる」
？「…………面白い話があるんだ」
？「俺もまだ半信半疑だが、このオッサンの話が本当なら…この死体をヒグマに食われるわけにはいかねぇ。アンタらはヒグマ猟に慣れてる。ちからを貸してくれ……どうしても金が必要なんだ」
アシ「『………………』」
？「そうだよな。こんな話、俺も最初はホラ話だと思ったけど……」
アシ「信じる」
『私も信じます。』
？「ほんとか？」
アシ「なぜならその殺されたアイヌのなかには私達の父親も居たから」
？「なんだって？」
アシ「話はあとだ。急いで薪を集めろ」
？「火があれば近づかないのか？」
『いや、ヒグマは火を恐れません。このかがり火の明かりでヒグマを撃ちます』
アシ「死体を囮に使って待ち伏せするんだ。もっもっと薪が必要だぞ」
？「じゃあ……遺体をもっと明かりに近づけておくか」
アシ「ちょっと待て、この入れ墨 そうか…これは！なんて冷酷なことを…」
『！………ああ、なるほど…最初から金塊を囚人達に山分けするつもりなんて無かったのか』
アシ「こいつらそれも知らずに……」
？「どういう意味だ？」
『見てください、入れ墨が胸や腕にも廻り込んで彫られています。そして そのすべてが身体の正中線で途切れている。この位置は熊や鹿を解体する時、毛皮を剥ぐために切り込みを入れる線と同じです。』
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作者名：月夜 | 作成日時：2021年5月7日 19時
