過去の記憶 ページ8
Aが齢8歳の時だった。
親は離婚して兄は父についていき、Aは母についていった。
ただ、それだけのことだったがAが齢12歳の時父と兄は行方不明になった。父と兄が住んでいる家に警察が来たときは"真夏"というのに氷が壁についていたり床が凍っていた。床を土台にしたスケートリンクだったという。それと壁に掛かっていた鏡が半分ほど割れていたことだった。
母は別に気にしなかった。もう一緒に住んでいた夫と兄には他人扱いをしていたので別にどうでも良かった。
「Aは、今幸せ？」
これが母の口癖だった。母は警察署で働いている。朝には寝床へついて気づいたら母はAに問いかけている。
「Aは、今幸せ？」
「母さんと居るから幸せだよ」
聞かれたたび、そう答えると母は笑顔になった。
「Aは、今幸せ？」
「幸せじゃない」
「そう、そうよね...ごめんなさいね...私が居るから」
反対の言葉を言ったら母は泣いた。泣いたのでこれからは母の機嫌をとるように嘘でも「幸せ」と答えた。
そうやって問いかける母はAが齢14に消えた。学校から帰るといなかったのだ。
机には【私のかわいいA、ごめんなさいね。お金は銀行口座にあるわ。】とだけ書かれた紙のメモがあった。紙のメモには血が付いていた。紙で指を切ったのだろうか。
その時Aは「どうしようか。」と泣くことはなく、冷静に考えた。その時母が麻薬に手を出したことを思いだした。
「ああ...そっか。」
全てを察した。
「この紙についた血は返り血だ、母さんは殺されたんだ」
そうやって察した。
これから母のお金で生きることは難しい。そう考えたAは働いた金と母の金を足して生きていた。
齢18の誕生日。今日もバイトをした帰り道だった。
いきなり真上にヴィーナス像が現れたのだ。真下には血がついていた。
自分の血だった。自分は石膏の像に押しつぶされたのだ。
「ギャングの抗争に石膏の像を落とされ巻き込まれた、母のせいだ。でも仕方ない。俺は死ぬんだ。と、まで悟った。
だが、Aはいくら経っても死ねなかった。打ち所が良かったのか呼吸がしにくいだけで生きていた。10分が経ったころ。
すると、背中から冷たいような感じがした。ゾッとするような寒気ではない。冷凍庫を開けたような冷たさだった。
実際Aは血が出た所から噴水が出てくる瞬間に凍らせたような、うねった氷が自分を守っていたのだった。
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