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you side
誠也くんに自販機でトマトジュースを買ってもらって、3人がいる部屋に戻るために長い廊下を歩く。
誠也くんとこうやって歩くの、ひさしぶりな気がするなあ。
末「Aさ」
「はい」
末「ファーストキスのこと、覚えてる？」
何を言うてんのやろ、この人は。忘れるわけなんかないやろ。
「覚えてますよ、もちろん」
末「今、あいつら3人その話しとるから。部屋戻ったらたぶん聞かれるか、よそよそしくなりよると思う」
「え、なんでわたしのファーストキスの話してるんですか？」
末「なんでやっけな。なんか話の流れ的に？」
「まだやで、って言うたらどうなるんかな」
そう言ってみると、誠也くんはピタリと立ち止まってこっちを見た。
その表情はあのときと同じで、真剣な、少し傷ついたような顔。
末「…3人の誰かが上書きしてくれるんちゃう？」
「上書き、って。わたしにとってはよき思い出なんやけどなあ〜」
末「ていうか、この前に男友達にされた言うてしもてるんやから、『まだ』って言えへんけどな」
「うわ！ほんまやん！ダル！」
あーあ、せっかく嘘ついてみようと思ったのに。どうせすぐバレるんやろけど。
3人が待つ部屋に入ると会話がピタリと止まって、わたしの話をしていたのがバレバレ。
誠也くんから紙袋を受け取って中を開けたりしていると、レポートをしていたらしい晶哉くんがのそのそと隣に座った。
佐「あの、Aちゃんのファーストキスって、こないだの男友達さんやったんですか？」
「え？誠也くんやけど」
首の骨折れるんちゃうかってくらいの勢いで、こっちを向いた大晴くんと小島くんと、そして誠也くん。
末「A！おまえ！」
福「はああ！？」
小「誠也くんダル」
佐「さっき『なんも知らん』って言うてたやん！」
末「ちゃうやん！あれは『Aって誰かと付き合ったことあるんかな』って話のときやん！」
小「えっ、ほな付き合ってないのにチューしたってこと？」
佐「そんなことある！？」
「あるんちゃう？もう大人やし」
末「おまえなあ！そんな言い方したら俺らが変な関係みたいやん！」
キャンキャン吠える狂犬。ちょっとからかいすぎたかな？
忘れられへんことしてきたのはそっちのくせに、忘れたがってるのは誠也くんのほうみたいや。
ずるいから、もうちょっとだけいじめさせて。
(「忘れたい」と思ったこと、ないんやけどなあ)
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作者名：リリー | 作成日時：2021年6月4日 19時
