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#14 ページ14

湯船に入る拍子にアヒルが波に攫われた。
いつの間に買ったんやろ。
黄色のプラスチックは呑気にぷかぷか浮いている。

リビングにいても聞こえたはしゃぎ声は、このアヒルで遊んでいたからか。
こういう小さなところで大毅はきっと良い父親になるだろうなと思う。
今日の昼も、たくさんそういうところを見た。
シュウと一緒にはしゃいで、笑って、俺に手招きして。
大毅の大好きなところ。それでいて、ギュッて胸を締め付けてくるところ。

大毅の未来を奪いたくない。
皮肉なことに、大毅のお義兄さんと同じことを考えている。
結婚して幸せな家庭を築いてほしい。
子供を持って、孫へ、ひ孫へと血をつないでほしい。
どうかちゃんと、幸せになってほしい。

やから身を引こうと決めたのに。
神様の意地悪なんやろか。
こうして、良い父親してる大毅を間近で見させられるのも。
俺が、大毅の家庭の一部みたいなツラしてこの家にまだ居るのも。

「ふぅ〜…」

わさどらしくため息を吐く。
自分の中のモヤモヤを全部外に追い出して、蓋をするように。
だめやな、最近。ずっとこんなこと考えてばっかり。
入浴剤で紫に染まった水面に、情けない自分の顔が浮かんでいる。





お風呂から上がると、何やら困った顔の大毅と涙目のシュウの姿。

「どしたん?」
「ママに会いたいんやて」
「あらら…」

数日経って慣れてきた頃かと思ったけど、反対だったらしい。
いつまで経ってもママが来ない。終わりが見えなきゃそりゃしんどいよな。

「今日楽しくなかった?」

眉を下げて大毅が尋ねると、悲しい顔のままシュウが首を振る。

「楽しかったよってママに言いたいのに、ママ、いつ帰ってくるん?」
「せやなぁ…」

一ヶ月。
子供にとってはまだまだ先の未来。

「あと30回寝たくらい、かな」
「さんじゅう…」

ぱち、ぱち、と瞬きをする。

「しぃ、ごぉ、ろく、なな____」
「あー、ちゃう、それシュウ寝たに入らへん!笑」

シュウの愛らしい発想に、思わず大毅と顔を見合わせて笑う。

「ダメ元で姉ちゃんに連絡してみるわ。ちょっとシュウ見てて」
「うん」

スマホ片手にリビングを出た大毅を見送って、シュウの顔を覗き込む。

「ママ、今仕事頑張ってるんやで」
「…いつもしごと」
「せやなぁ、シュウのママ、忙しいなぁ」
「うん…」
「どんな仕事してるか知ってる?」
「知らん」

拗ねてます、を体現した表情。
頬を突くとぷすーっと息が漏れる。

「シュウのママはな____」

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ナナセ(プロフ) - りっつさん» コメントありがとうございます◎ ぜひ床を転げ回っても大丈夫なところ(?)で閲覧してください!笑 (2021年8月31日 11時) (レス) id: 4f931bc539 (このIDを非表示/違反報告)
りっつ(プロフ) - ああもうすでに好きすぎて涙出そう。ここ、飯屋ですが床を転げ回りたいです。 (2021年8月30日 12時) (レス) id: d038e49da9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ナナセ | 作成日時:2021年8月27日 11時

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