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とある劇団のテントにて ページ34

ゆっくりと目を開いた。

浅い眠りだった。

冷たい床は自分が寝そべった部分だけ温くなっている。

目を擦る。右手には重い金属が付けられているから左手で。




鉄の仕切りの向こうに誰かいる。

寝起きの目にはシルエットしか見えないが、どうせ団長だろう。

香水と汚い欲の混ざった高貴な匂い(・・・・・)がプンプンする。




誰のおかげでそんな風に着飾れているんだか。

中身は客と同じでぐちゃぐちゃに腐っているというのに。

団長は徐にこちらに近付き、仕切りについた扉を開けて何かを投げ込んできた。




少年だ。自分と同じくらいの年齢の。

どこか良家の坊ちゃんなのか、身に纏う服は明らかに庶民が手に触れるような代物ではない。

売られて間もないのだろうか、高級そうな服に包まれた身体には健康的な肉がついている。




団長に命令された通りに少年の足に重りがついた金属を付けてやっていると、彼は場違いな声音で喋りだした。




「お前ここで暮らしてるのか?なんて名前なんだ?」

「細すぎないか?ちゃんと飯食ってないだろ」

「いやー、ちゃんと鍵かけたはずなんだけど」




こちらが何も反応せずとも勝手に喋る。

鬱陶しいとしか言いようがないが、どうせ少し経てばそんな元気もなくなるだろう。

シカトを決め込んでいると、あ!と大きな声を出した。

馬鹿野郎、団長の機嫌損ねたら全部こっちに流れてくるんだぞ。




「悪かったな、自分は名乗らずに!オレは…」

「オイ仕事だ!さっさと働け愚図が!!」




あァ、もうそんな時間か。

部屋と繋がる金属を団長が取り、外に蹴り出された。

真っ直ぐ進んだ先は舞台。

今日は何が待ち受けるのだろうか。




ふと背後で少年の声がした。

名乗ったんだろうけど、上手く聞き取れなかった。




衣装(ユニフォーム)に着替えて、適当に少年に手を振ってから舞台に向かった。







「皆様のお目当て、わかっていますよわかってますとも!



さあ、ヒトもどきの登場だ!」








その後は覚えてないけど。

部屋に戻ると少年は消えていた。

カカシのガキ曰く、良いとこの身なりをしたやつらが来たとか。

ヘビ顔ババア曰く、そいつらの服には高貴な家の印が入っていたとか。

白いジジイ曰く、少年はずっと舞台を見つめていたとか。




自室で座る頃には聞いたことはだいたい忘れた。

何の感情もわかず、ただただ眠りたかった。









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作者名:くろかは | 作成日時:2020年3月24日 15時

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