5 煉獄杏寿郎 ページ6
病院へ寄ったため、学校に来るのが遅れてしまった。朝酷い悪夢を見てしまい、気が動転して自宅の階段から落ちてしまった。幸い受け身を取ることができ、大きな怪我はなかったが、念のためと病院を受診したのだ。膝を少し擦った程度で済んで本当に良かった。
それは受け身が取れたおかげ、引いては前世の記憶のおかげだが、そもそもの悪夢が前世の記憶を反映したものだったので、なんとも言えない。
階段へと歩く廊下は、そこらかしこからドアを通したため小さくくぐもった先生の声しか聞こえないため、結構静かだ。今の時間なら多分英語の授業だろう。階段に差し掛かった時、見通しが悪いものだから、上から降りてきた先生と危うくぶつかりそうになる。
「おおっと」
「あああ!すみません!」
降りてきていたのは、煉獄杏寿郎様だった。恐らくこの学校で最も生徒に好かれている先生。特に何を持っているわけでもなく、身軽な格好をしている。
「いや!俺の方こそすまなかった」
快活な返事と共に、身を案じられる。そう言えば、前世で最後に会った時もこんな会話をした気がする。あの後、本当に直ぐ後に乗り込んだ列車内での鬼討伐の末に、この方は死んでしまったのだ。
「膝を擦りむいてしまっているじゃないか、どうしたんだ?」
「ああ、これは自宅で転んでしまって」
「うむ。元気が良いのはいい事だが、怪我をしない範囲にするんだ」
真っ直ぐに見つめてくるその瞳に、ふいに涙が零れそうになる。あの日もこの人はこうやって、一介の鬼殺隊員の私と向き合ってくれたなあ。
それなのに、どうして。
ああ、駄目だ。前世は前世、今世は今世だ。昔のことばかり嘆いてはいけない。そんなことでは、心強く生きていけない。
「…はい。気をつけます、ありがとうございます」
「ああ」
「先生はどちらに?」
「特別棟の方に忘れ物をしてしまってな」
「ああ、そうなんですね」
「今日は少し寝坊をしてしまってね。特別棟の方へ直行したんだが、こちらに来る時弁当を忘れてしまってな」
よもやよもやだ!と先生はあっけらかんと笑った。
昼食と言えば、煉獄先生のお昼ご飯は手作り弁当なのだという。一時は真逆彼女かと囁かれたらしいが、どうやら弟さんが作っているらしい。弟さんの存在は皆が知っている。何故ならその子は、この学園の中等部で尚且つ物凄く先生に似ているからだ。
「では失礼します」
「ああ」
今世では長生きしてください、と心の中で願った。
(人気者の先生との話)
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おにゃんこ(プロフ) - コメント失礼します。私この作品大好きです!これからも頑張ってください (2020年2月14日 17時) (レス) id: efb665c293 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハッシュタグ | 作成日時:2019年11月14日 18時