18話 ページ18
「今日はありがとう。」
「ううん、僕がやりたくてやってるからね。」
あまり長居もできないので音楽室を隅から隅まで見た後、中学校から僕達は出た。
三年も経てば知っている先生もほとんどいなかったので職員室にも一言「ありがとうございました」とだけ言った。
中学から出るとAはふぅ、と息を吐き出し少し名残惜しそうに校舎を眺めていた。
「あと、もう一箇所連れて行きたいところがあるんだ。」
「え?」
不思議そうな表情をするAを連れて、僕はある場所に向かった。
.
.
「ここはね、Aが住んでた家なんだよ。」
「ここが……。」
僕はAを元蘭堂家に連れて来た。
今は違う人達が住んでいるけれど、ここは紛れもなく彼女が生まれ育った家だ。
「ここに住んでたんだ…私…。」
「うん。」
「……お母さんはなんで、元住んでいた場所も学校も一切教えてくれなかったんだろう…。」
Aは家を眺めながらぽつりと呟いた。
「なんにも、教えてくれないの。家も、友達も、学校も。私が記憶を失くす前のことは一切教えてくれなかった。
自分の名前とか、生きていくための術とか、計算の仕方とか。そういう類のものは覚えてるのに、通っていた学校とか住んでいた場所とかどうやって育てられてきたかは忘れちゃった。」
__思い出したいのに。思い出す手掛かりになるかもしれないのに。何も教えてくれないの。
Aはぎゅっと拳を握り締めてそう言った。
確かにおかしい。妙に引っ掛かる。
何も教えてくれないのは、いくらなんでも不自然ではないか。Aの言う通り手がかりになるのに…。
「……だから、時透君に会えて良かった…。
本当にありがとう。」
夕陽に照らされて微笑む彼女は、やっぱり綺麗だった。
でも、どことなく悲哀が含まれていて心苦しくなった。
僕では、彼女を救えないのか。
記憶を取り戻す手伝いができないんじゃないか。
そんな不安に駆られてしまう。
「帰ろっか。ここに居座っても不審に思われるかもしれないし。」
Aはそう言って駅のある方向に足を進めた。
僕もその侘しい背中を追うように走った。
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白霞(プロフ) - いちごアメさん» 応援のお言葉ありがとうございます。面白いとも言って頂けて嬉しい限りですございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月19日 17時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
いちごアメ - とっても面白いです!!これからも頑張ってください (2020年8月18日 21時) (レス) id: 77a7bd0b14 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - つぶやき星のつぶやき女さん» そんな風に言って頂けて光栄の極みでございます!素晴らしい作品だなんて畏れ多い…!最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月18日 12時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
つぶやき星のつぶやき女 - す、素晴らしい!泣きました。とても面白い、悲しい?ような気がして面白かったです。(伝わらないような気がする。語彙力無くて、すいません!)とにかく素晴らしい作品でした。お疲れ様でした。 (2020年8月17日 21時) (レス) id: 9c9562d775 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - くれーぷさん» そのように言って頂けて嬉しい限りです!こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2020年7月28日 19時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白霞 | 作成日時:2020年7月26日 0時