16話 ページ16
少し古びた校門をくぐり抜けて、昇降口まで足を運ぶ。
その間にもAは物珍しそうに辺りを見回していた。
来客用のスリッパに履き替えると恐る恐る僕達は中へ入って行った。
「ここが三年生の頃の教室。」
「ここが…。」
物の配列などは若干変わってしまったけれど、これは紛れもなく僕達が使用していた教室の風景。
Aは面白そうに辺りを見回していた。
「すごい懐かしい気がする…気のせいかもしれないけど…。」
教室の窓の外を見つめる姿が、昔のAの面影と重なった。
彼女はよく窓の外を眺めていた。それで授業中に注意を受けたこともしばしばある。
「どうしたの?」
あまりにも見つめすぎてしまったのだろう。Aは僕の視線に気がついたらしく、不思議そうにこちらを振り返った。
『無一郎、なんでそんなに私のこと見てるの。』
ふっと、思い出した。そう言えばついついAの方を見てしまってそんなことを尋ねられたことがあったっけ。
好きな子を目で追ってしまうという話はよく聞くけれど、無意識に自分もしてしまっていたなぁ…。
「…なんでも、ないよ。」
そう言うしか、できなかった。
昔の面影を重ねていなたんて、言えっこない。
それから僕は体育館、美術室、職員室、裏庭、一、二年生の教室を案内してまわった。
Aは思い出せるわけじゃないけれどどこか懐かしさを覚える、と言っていた。
それだけでも大きな進歩だ。
そして、最後に。
「ここは音楽室。」
音楽室にAを連れて来た。
Aは吹奏楽部だったから音楽室が一番思い出深い場所だと思う。部活に心血を注いでいたから、何か思い出せるかもしれない。
「ここで吹奏楽部が活動してたから。思い出深い場所だと思うよ。」
「そっか…。」
Aはゆっくりと歩みを進めた。音楽室に置いてあるグランドピアノに触れるとポロロン、と音を鳴らした。
酷く優しい音色なのに、どこか見え隠れする悲哀を含んでいるように僕には聞こえた。
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白霞(プロフ) - いちごアメさん» 応援のお言葉ありがとうございます。面白いとも言って頂けて嬉しい限りですございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月19日 17時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
いちごアメ - とっても面白いです!!これからも頑張ってください (2020年8月18日 21時) (レス) id: 77a7bd0b14 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - つぶやき星のつぶやき女さん» そんな風に言って頂けて光栄の極みでございます!素晴らしい作品だなんて畏れ多い…!最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月18日 12時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
つぶやき星のつぶやき女 - す、素晴らしい!泣きました。とても面白い、悲しい?ような気がして面白かったです。(伝わらないような気がする。語彙力無くて、すいません!)とにかく素晴らしい作品でした。お疲れ様でした。 (2020年8月17日 21時) (レス) id: 9c9562d775 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - くれーぷさん» そのように言って頂けて嬉しい限りです!こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2020年7月28日 19時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白霞 | 作成日時:2020年7月26日 0時