検索窓
今日:48 hit、昨日:0 hit、合計:96,519 hit

優しい夜 ページ10

バイトを終えて外に出ると、外の空気はもやもやとしていて、梅雨入り前の空気があった。


私は厚着できたのを後悔し、カーディガンのボタンを外してかばんにいれた。


駅へと続く大通りに差し掛かったとき、ともちゃんの言っていた会は今日だったということが、突然頭をよぎった。


ふと、駅と反対方向に向かって踵を返していた。


クラス会が行われている店はこの通りにあった。


顔を出す気はなかったし、もう10時をまわっているので、他に移動しているだろうな、とは思ったが、なんとなく、店の前だけでも通ってみよう、という気になったのだ。


卒業式の日以来、私と坂田くんが会うことはなかった。


駅や近所のスーパーでも、会うことはなかった。


そんなことをぼんやり考えていると、突然、通りの向こうから騒がしい声が聞こえ、私は我に返った。


それが、中田君の声だったような気がして、私は慌てて顔をふせた。私は目立たない女の子だったし、見ても分からないかもしれない。


それでも、うっかり同級生達と遭遇などしないうちに早く帰ろうと、方向をかえて歩きだそうとしたとき、ビル横の薄暗い非常階段で、黒い影が動いたのが見えた。


私はその影に目を奪われた。


ゆらりと動いたのは一瞬で、その影は、私と目が合うと、そのまま静止したように見えた。


私は顔を伏せるのも忘れて、息を飲んだ。


見間違いかと思ったが、そこにはたしかに人影のようなものがあった。


信号が青になった。


ピコンピコンと一定のリズムで音が鳴る。


信号待ちをしていた人たちが、うまく人並みを避けながら交錯していく。


そのとき、影がうごいた。


早足で、横断歩道を渡ってくる。


私はそれにハッとして、走り出した。


会ってはいけない、と無意識のうちに思って、駅までの直線をかけていく。


運動不足で急に走ったので、肺が痛い。


それでも私は足をとめなかった。


改札口が見えてきたときだった。


「待って!」


後ろから腕をとられて、聞き覚えのある声が私を捕まえた。


ゆっくりと振り返ると、懐かしい赤い頭が、息を切らしながら私を見ていた。


「やっぱり、Aちゃんだ」


やはり、あの影は彼だったのだ。


「ひさしぶりやね」


「…………坂田くん」



彼は目を細めて、困ったように眉を下げた。


.

.→←.



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (82 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
253人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

りひと(プロフ) - たまさん» たま様/コメントありがとうございます!またコメントをいただけて嬉しいです!続編のほうも、引き続きよろしくお願いいたします! (2019年12月24日 11時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
たま(プロフ) - こんにちは!グッドイブニング・トウキョウから引き続きずっと読んでいます。坂田さんsideも入れて頂きありがとうございました。これからの逆襲編も楽しみですし、また坂田さんとくっつくのも楽しみにしております。これからも応援しております。 (2019年12月24日 11時) (レス) id: a928baf79e (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - shioriさん» shiori様/コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです!今後も楽しんで読んでいただけるよう努めて参りますので、応援のほどよろしくお願いいたします! (2019年12月22日 3時) (レス) id: 643f7a330d (このIDを非表示/違反報告)
shiori(プロフ) - 初コメ失礼します!浦田さんのキャラめちゃくちゃいいですね!元々惚れてますけど余計に惚れますね!応援してます!更新頑張ってください! (2019年12月22日 1時) (レス) id: f06d85eb8e (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - ゆずの実さん» ゆずの実様/コメントありがとうございます!どんどん更新して参りますので、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします! (2019年12月21日 13時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:りひと | 作成日時:2019年12月13日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。