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坂田くんと水族館に行ったときのことはよく覚えている。
すごく楽しくて、自分の思ったことを言っていいんだって思えたから。
思い返せば、私の高校生活の至るところに坂田くんがいたのだと気づく。
「にしても早坂さん、猛アタックやな〜」
蛇のように列が作られている中、坂田くんたちは私たちの1列あけて向こう側の列にいる。
ちょうどすれ違うような形で、私もようやくそれが見えた。
早坂さんは坂田くんの腕に抱きつくように腕を組んでいる。
坂田くんは気にする風でもなくそれをそのままにしているし、付き合っていないだなんて嘘みたいだ。
やっぱり、坂田くんの好きな人は早坂さんなのだろう。
私は見ていられなくて目を逸らした。
「Aちゃん？」
「なに？」
「大丈夫やで」
なにが、とはセンラくんは言わなかった。
「……うん」
だから私も聞かなかった。
せっかくセンラくんが楽しむ時間を作ってくれたのだ。
いまは、ちゃんと楽しもう。
センラくんに気を使わせてばかりじゃ、だめだ。
坂田くんのことは諦めるって決めたのだから。
「大丈夫だよ」
私はセンラくんに向き直って言うと、彼は困ったように微笑んだ。
坂田くんたちはアトラクション乗り場に着いたところだった。
水の音とフクロウの声が聞こえてくるようになってきた。
乗り場は夜をイメージしているようで、蛍をイメージした電飾が飾られている。
海賊の入江をイメージした乗り場は木製の床で出来ていて、歩く度に軋む。
ちゃんと楽しみたい。
せっかく来たのだ。
坂田くんたちとは別行動だし、もう気を遣う必要も無い。
せっかくセンラくんが気を回して楽しめるようにしてくれたのだ。
純粋に、楽しみたい。
「センラくん、私、ちゃんと今日は楽しみたい」
「そうやな。俺もやで」
私がそう言うと、センラくんは待ってましたと言わんばかりに頷いた。
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年11月12日 17時
