グットイブニング・トウキョウ【あほの坂田】 (ページ17)

今日:3 hit、昨日:8 hit、合計:90,447 hit

. ページ17

「ね、なに見る？」

おれ、イルカショーみたいねん！と小学生みたいなうきうき顔で言うものだから、思わず私は吹き出した。

「いいよ、イルカショー。私も見たい」

「あとはな！サメもみよ！」

遠足に来たみたいにはしゃぐ坂田くんの話に頷きながら、イルカショーのあるエリアまではぐれないように歩いていく。

だんだん人が増えてきたようで、流されるようにして、ようやくたどり着いた。

「お、あそこ空いとるやん！座ろ!」

通路側の席がふたつ空いていて、ラッキーだね、なんて言いながら腰掛ける。

隣は小さな子供連れの親子だった。
小学校低学年くらいの男の子と3歳くらいの女の子の兄妹だ。

男の子はイルカショーを1番楽しみにしていたようで、まだかなぁ、まだかなぁと1分おきくらいに母親に聞いている。

客席の真ん中にある丸いプールの中には、3頭のイルカが悠々と泳いでおり、その周りでスタッフがショーの準備をしていた。

「みなさーん、こんにちはー!!」

飼育員のお姉さんの元気な挨拶でショーがはじまった。

隣の男の子は、こんにちはー!!と大きな声で返事を返している。

「じゃあ、これから皆さんに、お友達を紹介します！まずはバンドウイルカのリッキー!」

リッキーは名前を呼ばれると、黒いからだをしならせて、水中から大きく飛び上がった。

歓声が上がる。水しぶきが上がって、前の席からは楽しそうな笑い声も聞こえてきた。

次々にイルカたちは技を決めていく。
そのたびに水しぶきがキラキラ光って、イルカたちをさらに輝かせた。

「じゃあ、最後です!これには皆さんの協力が必要です！どなたか、お手伝いしてくださる方いませんかー？」

小さい子達が次々に手を上げる。

「Aさん、やろ!!」

え？、と思った時には、坂田くんに手を取られていて、小学生が先生に質問するみたいに大きく挙げられた。

「じゃあ、そこのカップルの方!おふたりでどうぞ！」

なんてこった、と私は思った。
人前に立つなんてやったことがほとんどない。

小中学生のときの学校行事で合唱をしたとき以来だ。

「よっしゃあ!Aさん、いこ!!」

そんな私とは裏腹に、坂田くんは嬉しそうに私の手を引いて階段を降りていく。

顔が熱い。緊張する。

でもそれ以上に、坂田くんに掴まれた手が熱い。

私はいたたまれない気持ちになって、顔をあげられず、飼育員さんの前に行くまでずっと坂田くんに繋がれた手を見つめていた。