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「いいよ。打ち合わせのときは俺が待たせてたし」


男の人にしては少し小柄で可愛らしい印象の渉さんは、笑うとさらに雰囲気が柔らかくなる。


この間ドタキャンされたことだって、もうすっかりどこかに行ってしまったみたいにふわふわとした気持ちになる。


その柔らかであたたかい視線が、いまこの瞬間は私だけに向けられているのだと思うと、思わず顔が緩みそうになる。それを隠すように微笑めば、彼は


「行こっか」


と言った。


歩き出した彼の一歩後ろを着いていく。大通りに出てもはぐれてしまわないように、彼の背中を追いかけた。


外では手も繋げない。手を伸ばせばすぐそこに渉さんはいるのに。


この距離が、もどかしい。


彼の奥さんなら、堂々と隣を歩けるのに。


彼の背中を見つめながら、私の胸は苦しくなる。渉さんが振り返らないのは分かっている。


けれども、もしかしたら、いつか私を見てくれるんじゃないか。私を選んでくれるんじゃないか、という奇跡みたいなことを信じたかった。


「大丈夫?具合悪い?」


そんなことを考えながら渉さんの背中を見つめていると、不意に彼が振り返った。その言葉に、ハッと我に返る。


「いえ、大丈夫ですよ。今日はどんなとこ連れてってくれるのかなって考えてました」


誤魔化すようにそう言えば、渉さんは困ったように眉を下げて笑った。


「じゃあ、気に入ってくれるといいんだけど」


彼が連れてきてくれたのは、イタリアンレストランだった。ビルの4階にあるここは外にはライトアップされたプールがある。


案内されたのはプールの見えるテーブル席だった。外のテラスも気になるが、ここはここでバーのような雰囲気がある。


いかにも女子受けしそうな場所を知っているあたり、奥さんともデートでこういう場所に来るのだろうかと余計な詮索をしてしまう。けれども、


「どう?」


なんて渉さんが不安げに聞いてくるものだから、思わず笑ってしまった。


「とっても素敵ですね」


「まじ?よかった。俺、つぎAとご飯行くために色々探したからさ。気に入ってくれてよかった」


彼は安心したようにそう言って、嬉しそうに目尻に皺を寄せて笑った。


私とご飯行くために、探してくれたんだ。


さっきまで勝手に詮索をして傷ついていた自分がアホみたいだ。彼のその言葉に、私はもう嬉しくてたまらなかった。胸が締め付けられるようにぎゅうっと苦しくなる。




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Chinese redbud→←.



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(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...?何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します!めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です!更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りひと | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年8月17日 20時

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