. ページ40
その日の昼下がり。
センラは午後から営業同行らしく、ついさっき荷物を持って出ていった。外で昼を食べてから現地集合なのだろう。渉さんが忙しいときは、よくあることだ。
センラの背中を見送りながらスマホを確認すると、メッセージが入っていた。
差出人は渉さん。
思いがけない相手に、どきどきしながらメッセージを開く。
うらたさん今日の夜、空いてる?
たったそれだけの、簡潔な文章。
朝も会えたのに夜も一緒にいられるんだ。それはもちろん飛び上がるほど嬉しいことだったけれど、それ以上に渉さんが私に会いたいと思ってくれて、誘ってくれたことがいちばん嬉しい。
A空いてます!
すぐにそう返すと、間を置かずに既読がついた。かと思えば、たぬきが喜んでいるスタンプが送られてきた。
「………ふふ、かわいい」
渉さんがメッセージをくれただけで、私の頭の中は彼でいっぱいになってしまう。
待ち合わせの場所と時間を決めると、
うらたさんよかった。楽しみにしてる
と送られてきた。「楽しみにしてる」なんて。そんなの、ずるい。周りにバレないように小さく悶えた。
渉さんが会いたいと言ってくれた。私を必要としてくれている。昨日のことなんてすっかりどこかにいってしまって、私は張り切って仕事に取り掛かった。
けれども、楽しみすればするほど時間はゆっくりに進んでいくような感覚がして、夜が待ち遠しくて仕方がない。あと30分で定時になるというところで、センラが営業から戻ってきた。その顔は、険しい。
「どうしたの、そんな怖い顔して。図案、通らなかったの？」
「そんなんちゃうわ」
ずいぶんと虫の居所が悪いらしい。センラは乱暴に営業カバンを置いて、どかっと椅子に腰かけると大きなため息をついた。
まるで怒っているのを無理やり押し込めるように、長く息を吐いていた。そうしてようやく顔を上げると、
「今日は？」
とだけ言った。
「今日はパス。明日なら」
「なら明日」
そうと決まると、センラはまた黙々と仕事に取り掛かりはじめた。定時で私が帰るまで、彼は一言も話さず、ただキーボードを叩いていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 488人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...？何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (
レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します！めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です！更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
