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「そうなんかなあ。けど俺、あいつとの子どもがいまひとつ思い浮かばれないって言う感じなんよな………って、Aに言ってもしゃあないわな」
悪い悪い、と言いながら、センラは大真面目な顔で私を見た。
「Aの子どもなら簡単に想像つくんやけどなあ。そうやな、その子はちょっと人見知りで、人と会っても話すのが苦手で俯いてまうような、恥ずかしそうに挨拶するような子で。けど、愛情深い子でさ、お父さんの誕生日には『パパ、お誕生日おめでとう。だいすき』って言うてくれるんよ。んで、俺は嬉しくて目をうるませながら、『ごめんなぁ。パパが1番好きなんはママなんよ』ってちゃんと言うんや。きっと、泣かせてまうんやろなぁって」
「センラ、それ私の子供じゃなくて、自分の子供じゃない。想像できないーなんて言ってたくせに、いっちょ前に妄想してるじゃない」
「妄想か。けど、Aの子供なら、かわええんやろな。Aに似て可愛い感じの子で、背も少し高くて。けど人付き合いが苦手で損してよく泣いてる。みたいな」
「…………私と、センラ」
「あ、そうそう。弟も生まれたらきっとそいつはシスコンになる。可愛ええ姉ちゃんにべったりの。おかげでシスコンで有名な残念な男になりそう………って、これも俺の妄想か」
「うん。そうだね………」
未来を想像しながら勢いよく話していたセンラは、自分の言葉を思い返すと照れくさそうに笑った。
センラの話を聞きながら、私は渉さんを思い出していた。彼との子ども………そう考えてみるけれど、ちっともその絵は浮かんでこない。それどころか、私と渉さんが幸せな家庭を築くことすら想像できなかった。
一緒に食事もして、デートもして、それ以上の関係にもなっているのに、未来のことは真っ暗闇みたいに、なんにも出てこないのだ。
ああ、センラが言っていたのはこういう事なのかもしれない、とそのときなんとなく理解した。
いまごろ渉さんは何をしているだろう。奥さんと楽しく食事をしているだろうか。それともまた喧嘩をして傷ついてしまっているだろうか。
渉さんのことを考えれば考えるほど、胸は苦しく痛くなる。
「………A?」
センラに名前を呼ばれて、ハッと我に返った。
「なに?」
「Aは子ども、欲しいと思わへんの?」
「え、私の子ども?」
「おん。ちゃんと、産みたいと思わへんの?」
どきりとした。
この男は、どこまで知っているのだろう。
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あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...?何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します!めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です!更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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