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「でも、慣れって怖いですよね」
Aは、少しだけ笑みを深めた。
「皆さんと話していくうちに、知っていくうちに、どんどん、人間界に帰ろうって思わなくなっていったんです」
風が凪いだ。爽やかな潮風が吹き抜け、Aの髪を揺らす。
「死にそうになっても、皆さんが助けに来てくれた。なにも出来ない、ちっぽけな人間のためなんかに、命までかけてくれた」
「A………」
そんなの、当たり前じゃないか。とうらたは心の中で言った。なによりも大切な存在なんて、空想の話だと思っていた以前の自分とは違う。
Aは大切なことを教えてくれた。それはきっと、彼女に出会わなければ一生得ることの出来ないものだ。
「私は、誰もいない人間界で生きるより、みんなのいる下界で生きたい」
彼女の真っ直ぐな声に、うらたたちは驚いた顔でAを見つめた。
「………いいのか？」
「皆さんがいいのなら。それに、まだ約束も果たせていませんから」
うらたと向き合うといったこと、坂田とまたお菓子を一緒に食べること、志麻とセンラとまた食事をすること。一緒にやろうと言った約束は、山ほどある。
そしてそのひとつひとつが、Aにとって大切なものだった。
「Aっ！」
坂田が駆け寄り、その勢いのまま彼女に飛びついた。思い切り抱きつかれて、Aはよろけそうになる。
「よかった…俺、俺…………」
いままで我慢していたのだろう。幼い子どもみたいに泣きじゃくる坂田の背中を、Aはそっとさすってやる。そうすると、ますます彼は泣き出してしまった。
「大丈夫です。ずっと、一緒にいますから」
「ほんまに、ええの？」
いまだに信じられないとでも言うように、センラが言った。
「ええ。私がみなさんと一緒に居たいんです。また、迷惑をかけてしまうと思いますが……」
「迷惑なんかじゃない」
涙声で、坂田が首を横に振る。
「Aのこと大好きだから、そんなこと思わん」
ぶわっ、とAは顔が熱くなるのを感じた。まさか、そんなふうに言われるとは思ってもいなかったからだ。
「ったく………坂田。いい加減離れろ。帰るぞ、俺たちの家に」
べりっと坂田をひっぺがして、うらたがゲートに引き摺っていく。それを笑いながら志麻も続いた。
ほら、Aも。とセンラに手を引かれてゲートに向かう。
何気なく振り返ってみた。
優しい風が、背中を押した。
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ちょこ - とてもよかったです！その後話がもっと欲しい！ (2022年6月26日 23時) (
レス) @page23 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 気づいたらこのお話に飲まれてました。とても素敵なお話をありがとうございました。他の作品も読みます！(*'▽'*) (2022年6月20日 21時) (レス) @page23 id: 020978a023 (このIDを非表示/違反報告)
ぷ(プロフ) - 読むたびに世界観に飲まれていきました。気付いたら最後まで読んでいました。素敵な世界を覗けてよかったです。ありがとうございました。 (2020年9月10日 20時) (レス) id: 5dd39aece4 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - 水無。さん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけたのであれば何よりです。今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月4日 23時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
水無。(プロフ) - ことで話にのめり込みやすかったですし、特に坂田さんの初々しいしい恋の表現の仕方には毎回きゅんきゅんさせられました。りひとさんの作る作品が大好きです。新作も前の作品も漁ってたくさん読みたいと思います。素晴らしい作品をありがとうございました！ (2020年9月3日 21時) (レス) id: 2fdfcf242b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年8月1日 11時
