chapter2 ページ8
見たのはやはり、いつもの夢だった。
酒を飲んどとき、イラついたときには必ずと言っていいほど養母は私のところにやってくる。
私が愛人の子供だと知ったのは、3歳の時だった。
両親が無理心中をして、不幸なことに1人だけ生き残ってしまった。
引き取られたのは正妻の暮らす家。
自分はいらない子なのだということを思い知らされた。
養母は、愛する人の命を道ずれにした愛人の面影が許せなかったのだろう。
「あんたさえいなければよかったのに」
「あんたさえいなければ、あの人は私のものだったのに」
「あんたさえ死んじゃえば…ｯ」
養母は次第にAを恨み、憎むようになった。
それは行動としても顕著に現れていた。
殴られることは日常茶飯事、腕に熱湯をかけられたこともあったし、包丁で刺されかけたこともあった。
痛い痛いと、喚けば喚くほどひどい目に合うことは幼いながらに悟っていたので、Aは必死に声を押し殺し、終わるのを待った。
そうして、彼女の気が済むまで時が過ぎるのを待つのが常であったし、正しいことだと思っていた。
そして、Aが養母を見た最期は、自分の首を絞める憎しみの籠った瞳だった。
「母さん、何やってるんだよ！」
そんな中、唯一Aを守り、話し相手になってくれたのは、5つ離れた異母兄だけだった。
養母を宥めるのはいつも異母兄の役目だった。
髪の色も瞳の色も違う兄は、いつもAの頭を撫でて、大丈夫だと言ってくれた。
Aはどんなに虐待を受けても、義母を憎むことは出来なかった。
ただ、彼女が哀れで可哀想な人なのだと、幼いながらに呆然と思っていた。
自分のせいで、彼女は狂ってしまったのだと、申し訳なさすら感じていた。
いつも夢に見る最後の記憶。
いつもはここで目が覚めるのに。
今日は違う。終わらない。
ギリギリと養母の白い指が、幼いAの首に巻きついてくる。
養母は長い髪を乱して「あんたさえいなければ、」とうわ言のように繰り返している。
だんだんと呼吸が苦しくなり、Aの瞳には生理的な涙が流れている。
ああ、このあとは知っている。
「うぉぉおおお！！」
兄の雄叫びが聞こえて、次の瞬間に呼吸が楽になる。
「ゴホッ、ゴホッ…」
急に酸素が入ってきて、Aは思わず咳き込んだ。
その傍らに、義母が倒れ込む。
養母の周りに赤い水溜まりが広がっていくのが視界の端に見えた。。
何が起こったのか、幼いAには分からなかった
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年11月3日 23時
