グットモーニング・トウキョウ【センラ】 (ページ31)

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すぐにできる対策として、Aはひとまずセンラの家に転がり込むことになった。

自宅は合鍵を作られている可能性があるため却下。
志麻の家に行くのは物理的にももちろん却下。
女子の同僚は仲のいい人もおらず、こちらは論外。

消去法的に残ったのがこれだった。

志麻は夜に仕事があるとの事で、泣く泣く帰っていった。
去り際に、Aにいくつか約束事を取り付けた。

・ひとりで出歩かないこと
・玄関を開ける時は相手を確認すること
・何かあったらセンラか志麻を頼ること

絶対やぞ！と念を押す姿に、「志麻くん、娘を心配する父親やん」とセンラは思わず吹き出した。

「俺は兄だからあながち間違っとらんわ！」

と返される。志麻くんも笑っていた。

後に引っ越すことも視野に入れつつ、今日は取り急ぎキャリーケースに必要最低限を詰め込んで、センラの自宅に行くこととなった。

今日は土曜で明日も休みなので、細かいものは日曜にセンラと共に取りに来る運びとなっていた。

センラのマンションは、彼が以前言った通り、Aのアパートの2軒先にあった。
マンションの13階。部屋には黒で統一された洗練された最低限の家具が置かれている。

テーブルの上には、黄色のガーベラの造花がさしてあり、その花だけが部屋に明るい色をもたらしている。

部屋は一部屋、倉庫と化している所があるので、そこを空けてもらえることになっている。

至れり尽くせりでAは申し訳ない気持ちになっていた。

部屋を見渡すAにセンラは声をかけ、黒い革のソファに座らせた。

「コーヒーはブラックだったよな？」

「…ありがとうございます」

ほかほかとマグカップからは湯気がたっている。

朝からずっと部屋をあけていたので、暖房が効いてくるまではまだかかるだろう。

彼女の隣に腰掛けて、コーヒーをずずっとすする。

テレビ画面には、バラエティ番組の再放送が流れていた。

「Aちゃん。不安やろうけど、頑張ろうな」

画面の中では、お笑い芸人が芸を披露している。

「はい」

「そうや、夜ご飯はなに食べたい？」

テレビ画面からは観客の笑い声が聞こえてくる。

「なんでも。センラさんは？」

Aはうろうろと歩き回る男を目で追いながら言う。

「そうやなぁ。…あ、じゃあ、揚げ出し豆腐、作ろうか」

前に一緒に作ろうって約束したやつ。

そう言うと、彼女の視線がこちらを向いた。

まるで、覚えていたんだとでもいうように。