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センラがAの元に駆けつけたとき、Aは生まれたままので、ベットの上でただ呆然としていた。
整然とされていた部屋は見る影もなくなっていた。
そこかしこに本やら雑誌やらが散らばっている。
彼女の部屋に入ると、事後の独特の匂いで何があったか察しがついた。
彼女の髪は乱れ、口は半開きの状態で、ひゅうひゅうと音を立てていた。
無理やりされたのだろう、肩頬は赤くなっていて、口の端は切れて血が滲んでしまっていた。
彼女はたすけてとささやくように繰り返し、はらはらと涙を流している。
センラは彼女にゆっくりと近づき、彼女の目線に合わせてかがんだ。
「…Aちゃん？」
目はあっているはずなのに、あっていない。
彼女の瞳はどこか遠くを見つめていて、どこか別の世界に行ってしまったみたいで、センラは急に不安になった。
「Aちゃん!」
思わず触れた肩の冷たさに、センラは驚いた。
慌てて自分が来ていたパーカーを脱いで、彼女に羽織らせ、その上からどこか知らない場所に行ってしまわぬよう、ぎゅっと抱きしめた。
「Aちゃん、もう、大丈夫やから」
大丈夫、大丈夫。と彼女を強く抱き締めながら、センラは繰り返し耳元でささやいた。
怖いものはもうないよ。
もう、大丈夫。
「…セ、ンラ、さん…？」
しばらくして、やっと彼女は戻ってきた。
「…そうやで、センラさんやで」
彼女の身体は少しぬくもりが戻ってきていた。
「ど、して…」
「志麻くんが連絡くれてん」
いま、志麻くんも来るからな。と彼女を安心させるように優しく言う。
「……センラさん、」
「ん？」
「……わたし、…」
こわかった、と消え入りそうな声で彼女は言った。
センラの耳にはそれはきちんと届いていて。
「…よう、がんばったな」
もう大丈夫やで、と言ってゆっくりと頭を撫でると、彼女はまた泣き出した。
彼女はセンラさん、センラさん、とうわ言のように繰り返した。
「大丈夫やで、ここにおるよ」
センラは壊れ物を扱うように、宝物に触れるようにAの名を呼び、頭を撫でた。
彼女は、遠慮がちに、でも助けを求めるように、彼の服を摘んだ。
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年11月3日 23時
