グットモーニング・トウキョウ【センラ】 (ページ22)

今日:13 hit、昨日:43 hit、合計:223,258 hit

chapter4 ページ22

.

それは週末の、みぞれ混じりの雨が降った日の翌朝だった。

たすけて。

夜の闇が白けてきた時間だった。

いまにも息が止まってしまいそうな声で、Aは電話をかけてきた。

震えのせいか歯が音を立てていた。

志麻は慌てて飛び起きると、スウェット姿のままパーカーをひっかけ、アパートから飛び出した。

そのまま引っ掴んできたスマホで1番上にある相方の電話番号を押す。

薄い鉄板の階段を転がり落ちるように降り、彼女がいる場所に向けて、濡れたアスファルトの上を走った。

何コール目かで、ようやくそいつは寝ぼけ声で「もしもしぃ〜」と答えた。

坂道を駆け下り、大きな水たまりを何度も踏み付ける。

「センラ、Aのとこ!!行って!!」

「はい？」

白いキャンバス地のスニーカーに泥水が染み込んでいく。

足音の残響だけが、くぐもって聞こえる。

「さっき、あいつから連絡あって」

たすけてって。

受話器の向こうで、焦ったように動き出す音が聞こえた。

「俺もすぐそっち行くから!!」

肺が熱くなり、空気を求め天を仰いだ。

相方はいまから向かうから!!と言った。

背後で、ガチャガチャと扉の開く音が聞こえる。

どうか、助けてください。

喘ぎながら息を吸い込む。

その日は驚くほど空気が澄んでいて、雨に濡れた街は光り輝いていた。

見上げた空には雲ひとつなく、静謐な青が広がっていた。