15 years ago ページ21
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例えばここが、深い地の底だったら
太陽なんて望まなかったのに。
「母さん、あのね、これ…花屋のおじさんが、母さんにって」
買い物の途中で花屋のおじさんにもらった赤いガーベラを、養母に見せる。
思えばAはこの頃、自分が頑張れば、いい子でいれば養母は愛してくれる、
今は自分が悪い子だから、ダメなのだと思っていたのかもしれない。
「…そう…なんて、綺麗な」
養母はAを見ながら、にっこりと微笑んだ。
「なんて綺麗な、血の色。」
Aは一瞬、何が起きたか分からなかった。
無残な姿になった花が、足元に落ちた音で
養母がはたき後したのだと一瞬遅れて理解した。
「血の色、血のいろ、ちのいろ！」
肩まであるAの髪を乱暴にひっつかむと、養母は狂ったように彼女を殴り始める。
「やめ…」
バシバシと頭に、頬に、養母の平手が飛んでくる。
長く伸びた彼女の爪が頬を掠め、うっすらと赤い線が残る。
「いたいよ、かあさ…っ」
「なんて醜いのかしら!？あの女が流した血と同じに醜いのかしら!!」
顔も忘れてしまった両親。
Aの母は、愛人だった。
次第にとんでくるのは、平手から拳に変わってくる。
だんだんと衝撃が強くなり、頭がくらくらとしてくる。
もうダメだ、と思った頃だった。
扉が乱暴に開いて、慌てた様子で異母兄が入ってきた。
「かあさん!？」
兄は驚いた様子で一瞬足を止めた。
「やめないか、母さん!!」
彼は乱暴に養母とAを引き剥がす。
すると養母は縋るように兄に抱きついた。
「…A、部屋に戻ってろ」
異母兄に言われて、彼女は重たい足を引きずりながら、自分の部屋に戻っていく。
「ああ稔…母さんが愛しているのは貴方だけよ」
養母は兄を離すものかと強く抱き締めた。
部屋に戻るとすぐに、Aはベットの上に座り、自分の体を抱きしめるようにして座った。
しばらくすると、下から声が聞こえてくる
「…あ、はあ…」
「ん……あッ…」
思わずAは両手で耳を塞いで、目をぎゅっとつむった。
規則的なベットの軋みも
唯の女でしかない喘ぎ声も
いっそ何も聞こえなければいいのに
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例えば。
例えばここが深い地の底だったら
自由も孤独も知らずに済んだのに。
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年11月3日 23時
