. ページ11
「大丈夫。だから、そんな顔せんで」
坂田くんは心配するような、どこか辛そうな顔をして言った。
そんな顔ってどんな顔だろう。
そんなにひどい顔してるのかな。
坂田くんは、いったん座ろうかと私に声をかけて、ベンチに浅く腰かける。
「俺もうらさんも、Aちゃんのこと、困らせたいわけじゃないんよ。Aちゃんには、笑っててほしい。できるなら、俺が笑顔にしたい。それだけ」
ごめん、と言おうとする私を遮るように、坂田くんは続ける。
「俺、Aちゃんに振り向いて欲しくて、また笑いかけて欲しくて、ドキドキして欲しくて………俺のこと意識して欲しくて。でも、間違ってたかもしれない」
坂田くんの瞳は真っ直ぐで、でもどこか後悔の念に揺れている。
「1番大切なのは、Aちゃんなのに。俺は、俺の事ばっかりだった」
好きな人に、自分のことを見てほしいって思うのは、当たり前のことなんだと思う。
みんな、同じだろう。
見てほしくて、おしゃれしたり、メイクを変えたり、ネイルしたり、髪型を変えてみたり。
坂田くんの場合は、きっと、言葉で伝えることだったんだと思う。
裏表のない彼だから、ストレートな言葉は、相手に真っ直ぐに届く。
「ごめん、私、坂田くんのこと、ぜんぜん考えてなかった」
坂田くんが私の目を見た。
私も、自分のことばっかりだった。
どっちかに決めなきゃってばかり思って、坂田くんやうらたさんの気持ちを考えていなかった。
2人とも、こんなにも私のことを考えてくれてたのに、それに気づけなかった。
「私も、自分のことばっかりだった。……ごめんね。ちゃんと、向き合うって言ったのに」
自分が情けなくなって、私は俯いて繋がれた手を見つめた。
「………無理、しなくていいからさ。俺はね、Aちゃんが笑っててくれたら、それで幸せなんよ」
坂田くんは両手で私の手を包むと、安心させるような声で話した。
「どっちかに決めなきゃいけないわけじゃない。俺かうらさんのどっちかを好きにならなきゃいけないわけじゃない。Aちゃんが好きになった人と、恋をすればいい。その相手が、俺だったらなって思うのが、俺とうらさんだった。それだけの話やもん」
難しく考えなくてええよ、って坂田くんが言う。
どうして、坂田くんはこんなに優しいんだろう。
真夏の太陽みたいに笑ったかと思えば、春の暖かな日差しみたいに、私の心を落ち着かせてくれる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 241人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りひと(プロフ) - みかんさん» みかん様/ コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです♪今後ともよろしくお願いいたします！ (2020年1月1日 10時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - 完結おめでとうございます！りひとさんの作品大好きです。これからも応援しています、頑張ってください！ (2020年1月1日 9時) (レス) id: 6edfb9ce46 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - しぃさん» しぃ様/コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです！今後とも応援のほどよろしくお願いいたします！またコメントお待ちしておりますね♪ (2019年12月31日 20時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まつりさん» まつり様/ありがとうございます！新年には新しい作品も投稿してまいりますので、今後ともよろしくお願いします♪またコメントお待ちしておりますね！ (2019年12月31日 20時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - 完結おめでとうございます！とても好きな作品なので2人分のルートを作ってくださり、とても嬉しかったです！他の作品の更新も楽しみにしています (2019年12月31日 19時) (レス) id: 42c92e6201 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りひと
| 作成日時：2019年12月24日 11時
