君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、告白 ページ50

「これにしよう」

二人で選曲した歌の予約がテレビ画面に映し出される。としみつが合わせやすそうと言うので、ありがちなディズニーの曲を選んだ。既に歌い終えていたしばゆーがそれを見て、パッと顔を明るくさせる。

「あ、これ俺も歌える。歌いたい」

「俺とAが歌うんだよ」

「ずるい。俺も混ぜて」

「ずるいってなに」

そんな会話からマイクの取り合いに発展する彼等。それを慣れた様子でニコニコして眺めてるりょう達。あたしは苦笑いをしたまま、台詞みたいな歌詞を口に出そうと大きく息を吸う。吐き出すその瞬間、キーーーンとマイクが物凄い音でハウリングした。あまりの音量に目を丸くしたあたしは咄嗟に両耳を塞ぐ。

「うるさいって！！！」

ハウリングよりもでかいとしみつの声がマイク越しに個室に響き渡った。

「今のはヤバい！耳イカれたかと思った」

「でかい声出すなって」

「しばゆーが引っ張るから」

「なんで俺のせいなの」

「いいから一回曲止めよう」

「歌い直すわ」

「あたしさ、本当はりょうと付き合ってないの」

みんなが話したいことを口々に話して混み合ってた会話が、あたしの声でぴたりと止まった。明るい曲調で流れるイントロと、一斉にこちらを見たみんなの顔が一致していなくて居心地が悪い。あたしは緊張で心臓が口から出て来そうになった。そしてもう一度告げる。

「ほんとは彼女じゃない」

先程まで馬鹿みたく騒いでた彼等は、こちらを凝視したまま一言も声を発さない。

「騙したかった訳じゃないし、りょうに"彼氏をしてほしい"ってお願いしたのもあたしなんだけど」

りょうが不安そうにあたしを見たが、何も言わなくていいと目で伝える。みんなは黙り込んでいて、お互い次に誰が話すかを探っているようにも思えた。

「ホントに言ってる？」

ふっと沈黙を破るように口を開いたのはとしみつ。あたしは小さく頷く。

「りょうの事好きじゃないの？」

「どうとも思ってなかったよ」

「なんでりょうなん？」

「たまたま名前を思い付いただけ…」

「……なんてこった」

理解が追いつかないといった様子で呟いたとしみつ。みんなの視線がチラリとりょうの方に向いて、彼の言葉を待つような雰囲気になった。りょうは絶対あたしを庇うような発言をする筈、こんな最低なこと言ってるあたしに大してなんて、何も言わなくていいと祈る。だが彼はいつも通りの笑顔のまま口を開こうとした。
その時、物凄い音を立てて部屋の扉が勢いよく開いて、開いた扉からてつやが怒った顔をして飛び込んできた。

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