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本当は怖いんだよ03 ページ30

「ごめん。俺に聞いたって、仕方ないよな」

「………」

”眼鏡返して”。そう言われたあたしは軽く目を細めて、未だに微笑んだままの彼に眼鏡を手渡した。

「進路の事だけど、女優が向いてると思う」

そういって明るく笑うものの、眼鏡を受け取る時だって指先少しもあたしに絶対触れない福尾先生の言葉を、あたしは聞き逃さない。ごめんってなに。何に謝ってるの?

「…ふざけんな」

あたしは眼鏡をかけ直す先生から視線を逸らし、プリントの白い枠へ乱雑に”女優以外”とだけ書いた。それを見た先生がそれは白紙と同じだと軽く笑う。

「好きな事をしなさい。進学でも就職でも」

「………」

「自由にできるのは今だけかもしれない、でも」

饒舌な先生。目の前に居る彼の姿が何重にもなってボヤけてきて、時計は約束の時間まであと5分をきってた。

「自分がしたいと思った事をしなさ…」

言いかけた言葉を防ぐように彼の胸元に飛び込んだ。微かにあたしの名前を呼んだ彼の体から香る柔らかな柔軟剤の匂いに包まれる。きっと奥さんが洗って、毎日アイロンを綺麗にかけてるシャツ。こんな白いシャツ大嫌いだ。大嫌い、なのに大好き。

「自分が一番したい事なんて一つしかない。あたしが卒業したら、さぁ」

最後まで言いたかった。だけど先生は、その骨ばった大きな手で絶対にあたしの事を抱きしめたりしない。その手はしっかりとあたしの肩を強く握って引き剥がすためにあるだけで、あたしは。

「卒業してちゃんと女優になったら、真っ先に俺にサイン書いてよ」

夕日越しに見えた先生の顔は凄く困ったあとの精一杯の笑顔で、悲しくてなのか切なくてなのか、あたしにはどっちか分からなかったけど涙が溢れ出た。

「女優になんかならない、絶対になってやらない!」

先生の方がいつも演技をしているみたいなのに、最後にはあたしに決定権を委ねてくる。

「もしなれたとしても、先生にだけは絶対に、サインしない…!」

頬に触れるお湯のような涙は焼けた石みたく熱くて、だけどそれが酷く心地よくて。でも心は裂けるようにいっぱいいっぱいなものだから、あたしは流れる熱を吐き出しながら泣いた。彼は黒縁眼鏡の奥で静かに項垂れる。

「本当は俺は、いつも怖いんだよ」

今なら分かる。あれは自分自身の事ではなく、あたしのことを言っていたんだって。

こことは違う、別な場所で君と°sora→←本当は怖いんだよ02



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設定タグ:東海オンエア , YouTuber , ワタナベマホト   
作品ジャンル:恋愛
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匿名(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» リクエストありがとうございます!亀さんペースですが、ゆるゆる執筆中ですので気長にお待ち頂ければと思います。 (2019年8月13日 11時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - てつやさんのお話がもっと読みたいです!!!お時間がある時で全然大丈夫なので、ぜひともお願いします! (2019年7月31日 9時) (レス) id: 318cc8d8b4 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - あゆみさん» ご報告ありがとうございます。一応全文確認してみたのですが、どこでスルーしているのか確認出来ずです…。タイミングが有ればで良いので、どのお話かだけ教えて頂けると凄く助かります。よろしくお願い致します (´._.`) (2018年8月20日 17時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - らいさん» お返事遅くなりました。時間が空きながらの更新ですが、それでも楽しみにしてくれる方々にとても感謝しております。ご要望にお応えできるかは分かりませんが、なるべく優先して考えたいと思います^ ^ コメントありがとうございました! (2018年8月20日 17時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
あゆみ - goziga aruyo----- (2018年8月19日 9時) (レス) id: a08ea1484b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:匿名 | 作成日時:2018年7月23日 0時

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