11.人を殴るべからず ページ11
夕暮れ時にエレベーターで鉢合わせたのは金色の彼、ではなく緑色のコケみたいな頭の人。先に乗っていたあたしは”開”のボタンを強めに押し込む。頭を下げて乗り込んだ彼はあたしの一つ下の階のボタンを押した。「こんばんは」と軽く挨拶すれば、彼も小さく同じことを言う。そこから会話は無く、静かに上がっていくエレベーター。ガラスの隙間から流れていく景色を目で追う。機械が擦れるような音がして、ゴウンと唸りエレベーターの扉が開いた。今一度あたしに向かって頭を下げた彼は小さな箱の中から出る。あたしは咄嗟に彼の背中を呼び止めた。
「あの、」
「え?」
彼は心底驚いた顔でこちらを振り向いた。閉じかけたエレベーターの扉を片手で押さえ、あたしは唇を開く。
「渡邊さんに……いや、あの、渡邊さんの家に居た金髪の人に、言っといて下さい」
「………?」
「殴ってごめんなさいって」
そう言うと、彼は暫く固まってあたしを見た後「……あぁ」と何かを察したように苦い笑いを見せた。既に成り行きを知っているのなら話は早い。お願いしますと言えば、緑色の彼は腕を組んで左右に頭を振る。
「別に謝らなくていいよ。ジン君がなんかしたんでしょ?」
「…いや、まぁ、うーん……」
「大丈夫。もう忘れてるよ、あの人」
「……………」
「でも普通に凄いよ。ジン君の顔ブン殴れる女の子とか居るんだって、みんなと話してたの」
感心しながら頷く彼。それもそうか、あたしの右手は見事に鼻頭に当たって彼は鼻血ボタボタで帰ったのだ。あの時は驚いて”ちょっと”手が出ちゃって、一人になって我ながら非道いことをしたと猛反省した。当てるつもりなんて無かったと言えば嘘になるけど、まさかヒットするとも思わない。思い出し笑いをしながら話し出す彼に、なんだか急に恥ずかしくなってきたあたしは「それじゃあ伝えておいて下さい」とエレベーターの扉を閉める。
「一応言っとくね」
扉の隙間から聞こえた声。ユラユラと揺れた緑色に向かって、もう一度お願いしますと返した。扉が完全に閉まって、あたしはエレベーターの壁にもたれて深く溜息を吐く。あの人ジン君っていうのか…と独り言を呟き、監視カメラに映る少しばかり疲れ切った自分の顔から目を逸らした。
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匿名(プロフ) - 湯豆腐さん» とても嬉しいコメントありがとうございます^ ^ なかなか試行錯誤しておりますが、私なりの彼等を楽しんで頂ければと思います。お話いっぱいになり移行しましたので、次も末永く応援頂けると嬉しいです! (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 花恋さん» お返事大変遅くなりました。時間が空きながらの更新ですが、それでも楽しみにしてくれる方々にとても感謝しております。またお話増えましたので、お時間ある時にでもちらりと覗いてみて下さい^ ^ お待ちしてます。 (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - なななさん» お返事大変遅くなり申し訳ないです。応援ありがとうございます!時間が出来また更新し始めたので、これからも気長に見守って頂ければ嬉しく思います^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 夜星さん» お返事大変遅くなってしまいました。最近時間が出来たのでゆるゆると更新しております。暇な時にでも覗きに来ていただければ幸いです^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
湯豆腐(プロフ) - 匿名さんがかくジンくんとマホトくんが一番好きです。匿名さんも大好きです。これからも応援してます! (2018年4月25日 19時) (レス) id: 65ae9a78b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名 | 作成日時:2017年7月10日 7時