ニコラシカ

01.金色は笑わない ページ1

あたしは怒っている、とても。

それは何故かというと、先月越してきた下の階の人達が異常なほど煩いからだ。どんな人達が住んでいるのかは知ったこっちゃない。だけど明け方から夕暮れ時、昼間そして深夜にも関わらず殺人事件があったのかってぐらいギャーギャー騒ぐ。ドッタンバッタン暴れまわって、挙句の果てに爆竹の音とか聞こえるし、とにかく近所迷惑。日頃から煩い煩いと思ってはいたが、もう我慢の限界。確かに引越し当初同い年ぐらいの男の子が挨拶に来た時に「うるさいかもしれません」とは言われたけど、予告すれば良いってもんじゃないし、煩いにしても限度がある。
昨日、下の階からここまで響いた絶叫であたしの堪忍袋の緒が切れた。
昨晩の怒りは収まることを知らず、あたしは日曜のお昼に下の階を尋ねる。”Watanabe”と筆記体で書かれてある表札を睨み、インターホンを強めに押した。でも部屋の中から反応はなく、タイミングを読んだかのように静かだ。今一度インターホンを押したが、やはり動きはない。ムッとしたあたしはボタンを連打する。

「渡邊さーん！ちょっとー！」

ピンポンピンポンと繰り返し押せば、重い扉がゆっくりと開く。やっと出て来たと文句を言う準備をすれば、中から出てきたのは気怠そうな金髪の男だった。

「……なんすか」

あからさまに面倒臭そうな声色。初日に挨拶に来た人とは少し印象が違う。開いた胸元からは流れるように彼の体に刻まれた英字の刺青が覗いてた。金髪の彼はズボンに手を半分突っ込んだまま「もしかしてファンの子？」と警戒した様子であたしを見下ろす。
一体何のファンだ。ふざけやがって、冗談なら聞きたくない。

「いい加減にしてくれません？」

「ん？」

「あたし上の階に住んでるんですけど、本当に煩いんです」

「上の階？」

「そうです。お隣からも苦情来てません？毎日毎日騒いで、一体何してるんですか？」

そう言えば、あたしの顔をじっと見て眉をひそめた彼。刺青が有ろうが無かろうが、そんな顔して凄まれたって怖くないぞ！みたいに、あたしも彼の顔を睨み返す。すると目を逸らして金色の髪をぐしゃぐしゃっと掻きむしった彼。

「ああー、ちょっと待って下さいね」

あたしに手のひらを見せて、後ろを振り返った彼は部屋の奥に向かって「マホトー！」って大きく叫んだ。結構な声量に後退りしたあたし。暫くすると、黒い髪に寝癖を付けまくった別の男が部屋から出てきた。

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