3 ページ3
.
これまでの経験を思い出せば。
高校生の男の子は持て余すものがあるのか、
女と見れば分かりやすい。
定期的に合う仲で、相手が少し年上なら尚のこと。
私が大学生で他の先生より年が近いからだろうか、
そういう素振りを見せてくる子がいない訳じゃない。
なるべく大学生って言わないでって塾で一番偉い教室長から言われてはいるけれど、生徒たちと親しくなるなかではどうしても質問されることだから。
フラットで話しかけやすそうにしつつも、
なるべく隙を見せないように接しているつもりだけれど。
私はまだ甘いらしい。
こういうあしらいになかば慣れつつある自分もかなしいけれど、お決まりの対応を取る。
繊細な感性をなるべく傷つけないように、でもはっきりと拒否の意思を示す。
諭すように、でも強く。
机の上で手を組んで、ここ重要ですよ、みたいに言う。
『七瀬くん、私先生で七瀬くんは生徒でしょう。だから』
そんな私に七瀬くんは食い気味にすらすらと答える。
「講義が終わったからたった今生徒じゃなくなりました。だからもうそれは関係ありません。
ただの男と女です」
…確かに。
カリキュラムが終わったいま、私たちは先生と生徒じゃない。
七瀬くんはやっぱり冷静だ。
あと、男と女って。いきなりリアルなこと言うんだなあ。
…ばか、何を感心しているの私。
『っ、と…私七瀬くんよりずっと年上だから。
七瀬くんには高校生の可愛い女の子のほうがお似合いだと思うんだけど』
「年なんて関係ありません。気にしたことありません。そもそも10年も経てばなにも気にならないくらいの差でしかないんです。もっと未来を見てください。
それに、俺には先生だけが可愛いんです。
先生しか見えないんです」
…なに。この熱さは。
不覚にもそのストレートさにドキッとする。
…可愛い、先生しか見えない、なんて射るように言われて。
いけない。
七瀬くんのペースにはまってしまう。
言葉では何とでも言えるのに。
こんな年下の生徒に翻弄されてはいけない。
国語教師の名折れというものだ。バイトだけれど。
きっ、と七瀬くんを見据える。
『大人をからかわないで』
「これ以上ないくらい真剣です…それに」
七瀬くんは嬉しそうにうっすら微笑んだ。
まつげの先に幸せのいろが浮かぶ。
「俺、今日誕生日なんです。…17になりました」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 168人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：冷麦
| 作成日時：2019年9月20日 18時
