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森の服の喫茶店から帰ってきてすぐ、私はおばあちゃんの部屋に走って行って頼み込んだ。
『おばあちゃん、あのね。私土曜日お祭りに行くんだ。…それで、ゆかたが着たくって…お願いします!ゆかた着せてください!』
夏のお祭りといえば、ゆかたしかない。
さっきたこやきや金魚すくいのことを思い浮かべた私は、そう思って、おばあちゃんにお願いした。
お辞儀から顔を上げておばあちゃんを見ると、部屋の中の小上がりの畳の上に座って、何かを広げていた。
それは白地に藍色の、夏の素材の更紗の着物。
博多献上の帯を重ねて、思案顔をしていた。
…と言ってもこの時は私には何が何やら分からなかったのだけれど。詳しく知るのは、また別の話。
おばあちゃんは私を見て、本当に嬉しそうな顔をした。
おばあちゃんはいつだって優しい。いつだって微笑んでいる。大好きなおばあちゃんの笑顔。
でも。
これまでで一番の笑顔を、その時見た気がした。
.
.
私とおばあちゃんは似ている。
もちろん年は離れているから、瓜二つとかじゃない。
でもふたり並んでいると、確実に家族だって分かる。
知らない人にも、お孫さんがこんなに似ていて、おばあさまさぞ嬉しいでしょう、って声を掛けられる。そういう似方をしている。
例えば顔。
どこかさみしそうな、鼻も口も小さなつくり。明らかに和顔。白いだけの肌。真っ黒の色素の濃い髪と目。
今はおばあちゃんは綺麗な白髪だけれど、昔は濡れた黒髪だなんて言われていたって。私もそういう髪をしている。
例えばからだ。
細いと言えば聞こえがいいけれど、ただただ小柄で薄い。加えてなで肩で全く服が似合わない。
制服はまだましで、肌が出る涼しげな夏の私服なんかは最悪だ。
最早ただの幼児みたいな心許なさがある。
だから私は自分の顔もからだもそんなに好きじゃない。
おばあちゃんに似ているって言われるのはとても嬉しい。
けれど友達やお母さんみたいに、ぱっと人目を引くような顔が羨ましいし、ふわふわの栗色の髪と薄茶色の目になりたいし、胸もおしりももっとあれば夏の服も綺麗な線が出るだろうって思ってる。背ももっとあればパンツもスカートも綺麗に着られるのにって思ってる。
おばあちゃんはそんな私を見透かすように、でも優しく言った。
「Aみたいな子はね、和装がよく似合うんだよ。だから、浴衣もよく似合うよ、きっと」
そう言うけれど、浴衣に似合う似合わないなんてあるだろうか。
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冷麦(プロフ) - らぐさん» コメントありがとうございます! 高橋くんて「青春が服着て歩いてる」って思っているのでそのあたり表現出来たらなあと書いたので…すごく嬉しい感想をありがとうございます!2つめのほうもとても腑に落ちる言葉で嬉しいです、大切に読ませて頂きました! (2020年4月22日 19時) (レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
らぐ(プロフ) - 冷麦さんが書く少し寂しい静かな作間くんも好きですが、青春臭く、キラキラとした優斗くんも大好きです!長くなってごめんなさい、これからも体調に気をつけて更新頑張って下さい^_^ (2020年4月21日 22時) (レス) id: 63299f834d (このIDを非表示/違反報告)
らぐ(プロフ) - 更新ありがとうございます!なんて言うんでしょう....すっごく青春を感じました、!!真っ直ぐな優斗くんも、優斗くんが大好きな主人公ちゃんも、不器用なお父さん(笑)もみんなが愛おしく、あーこんな気持ちも味わってたなーという懐かしく、温かな気持ちになりました。 (2020年4月21日 22時) (レス) id: 63299f834d (このIDを非表示/違反報告)
冷麦(プロフ) - りおさん» りおさん、ありがとうございます!完結しました! ウキウキワクワクして読んでくださったなんて嬉しいです!私もその言葉につられてウキウキしてしまいました。本当に嬉しいです…!更新へのお心遣いも嬉しい…素敵な感想をありがとうございました! (2019年9月18日 11時) (レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
りお(プロフ) - 完結おめでとうございます!短編集のはずなのにメンバーのストーリーがリンクしていると言うか、次の話のメンバーが出てきて次はこの人なのか!!とウキウキワクワクしながら読んでました!冷麦さんの作品すべてが好きです!これからも更新頑張ってください! (2019年9月18日 9時) (レス) id: 65c270f629 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冷麦 | 作成日時:2019年8月27日 15時