第21話 ページ21
アルバスside
Aの向いに座り、二人で茶を啜る。
沈黙を破ったのはAの方だった。
「なぜそんな馬鹿げたことを？」
彼女の目は黒く萎びた腕に、そしてわしがはめている指輪に向けられていた。
「人は、時に愚かな判断をすることがある。君もわかっておるじゃろう？」
「…あと一年といったところかしら？地獄への道のりはさぞ楽しいでしょうね」
「充分な時間じゃ」
「自己犠牲や献身は高潔で偉大だけど、君のそれは虚しいな。自己愛の欠落なのだから」
決して怒鳴っているわけではない。
とても静かな声なのに、心の底が冷えていくような恐ろしさがあった。
A・Aは今、確かに怒っていた。
「どうして君が怒る？」
「怒ってなんかいないわ、ただ呆れてるだけ。
君はさ…もし君の前にクモの糸が垂れているとして、こんなにぶら下がったら糸も切れるだろうと、少しでも軽くするために手を離すような奴なんだ。
そんなに美しくって優しくってどうするんだい」
「…わしが本当にそんな人間なら、地獄に落ちたりしないだろうて」
「そうかな？嘘つきは地獄行きだろ！」
勢いよく立ち上がった彼女は机を挟んだ距離を一気に縮めてわしの頬に手を添えた。
「死は恐ろしい。孤独は痛い。贖罪は重い。…アルバス、私の前くらいでは何も取り繕わなくていいんだよ？」
「貴女が昔のままであってくれたならそれも出来たでしょう。時代は枯れぬ花を許さぬ。時も移り変わり、会者は定離し、生者は必滅す…貴女が言った通りだ。
貴女がわしの頼れる先輩であったなら、わしも貴女の可愛い後輩であり続けられた。わしの罪も弱さも知っている貴女が側に居続けてくれたなら…」
「アルバス」
かつて憧れの先輩で、連れ回され、振り回された原因であるその女性は、自分だけあの時のままの姿でそこに居た。
孤立していた頃から手を引かれ、散々入れこませた挙句ふらりとどこかに消えて、気持ちの整理が着いた頃に戻って来て全てをめちゃくちゃにする。
教えられたことは有益で、言われた言葉は呪いのようにこの身にまとわりつく。
そんな魔性の女は何時だって突然に、残酷にわしの手を離す。
「君の言う通り、そんなことは万に一つも有り得ないのよ。君の腕が元に戻らないように、私ももう引き返せはしない」
突然の訪問者は嵐のように去っていく。
「ああ、戸惑う事無く光に背を向け気高い歩調で奈落へ突き進む。その姿の何と美しく愚かしい事か」
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真昼 - 最高でした！！一気読みしてしまいました！サラザールが好きなので、とても嬉しかったです！！ (8月27日 7時) (
レス) @page22 id: cd0b763249 (このIDを非表示/違反報告)
箱 - 素敵な作品ありがとうございます (8月10日 11時) (レス) id: 4edc0c80af (このIDを非表示/違反報告)
夜彩(プロフ) - ありがとうございます！これからもゆっくり更新していくので、どうか最後までお付き合いください！ (2023年3月23日 10時) (レス) id: bd39633a4b (このIDを非表示/違反報告)
イジー - 続編！おめでとうございます！全ての話が面白いです、これからも頑張って下さい！ (2023年3月23日 10時) (レス) @page2 id: c288b38476 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜彩 | 作成日時：2023年3月22日 16時
