14話 できれば犀川はやめて ページ15
何だかんだ誤解を解く間に、一時限目の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。私は、五メートル先で堂々と椅子に座り動く気配のない彼の方へ目線を向ける。
「……あ、の」
「何だい?」
「その……授業受けなくて、良いんですか?」
私は次の反応を待った。赤司は、数秒考え込むように動きを止めた後、「ああ」と事もなさげに返事をした。
「……い、良いんですか」
「?何がだ」
「いや、その、サボりになるけど……って、何で笑ってるんですか?」
何故か赤司がクスクスと笑っているので、思わずそう尋ねてしまう。
「フ……君がそうさせたのに?」
「へ、あっ、えと……ごめんなさい!」
途端に申し訳なくなり、再び毛布に顔を埋めた。彼は未だに笑うのを止めない。
「……いや、別に、犀川が気に病むことはないよ。それに、今更教室に行くのも気が引けるしね」
そう言うと、近くにあった本棚から一冊の本を手に取った。恐らく、活字ばかりの難しい小説だろう。
「犀川こそ、初日から授業を受けなくて良いのかい?」
「……わ、私は、別に、大丈夫です……」
中学生の問題は、私が小学生の頃に暇潰しで解いていたくらいのレベルだ。言ってしまえば、超超初歩的な内容である。つまり、今の私には暇潰しにもならない。
本来、こうして父が私を学校に行かせたのは、勉強と言うより友達を作って外の世界に触れて欲しいと言う意図からだった。実際に何度も確認した。もし仮に父の言葉に偽りがあったとすれば、私は家に帰り即座に反抗しよう。
「……あの、あかし君」
「どうした?」
赤司が本から目を離し、私の方を見た。
「あ、の、えっと……」
「?」
「……よ、呼び方を、変えてもらっても、良い、ですか……?」
「……構わないが、何故だ?」
私からこう言うのは意外だっただろうか。少し物珍しそうな目を向けてきた。どう伝えれば誤解されないか考えつつ、思わず口ごもる。
「……その、今までずっと“A”としか呼ばれたことがなかったので、だから……犀川、って呼ばれるのに、あまり慣れていなくて」
「……そうなのか。わかったよ」
赤司は爽やかに微笑んだ。
「じゃあ……A、と呼び捨てで呼んでも大丈夫かな?」
「!……は、はい」
「改めて宜しく、A」
少しだけ、ほんの少しだけ彼との距離が縮まったような気がした。物理的な方はまだ時間が掛かる気がするが。
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翡翠(プロフ) - モトコさん» ありがとうございます。がんばって更新します! (2018年11月3日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
モトコ(プロフ) - 続きが気になります。更新頑張ってください! (2018年11月3日 23時) (レス) id: e294c9830f (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - ゆっくりノワールクローンNo.1さん» ありがとうございます!これからももっと面白くしていきたいと思います!頑張りますね! (2018年8月14日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくりノワールクローンNo.1(プロフ) - ものっそい好みの作品です!!夢主ちゃん世間知らずで可愛いし間接キス知らないとかもう悶えちゃいます!!これからも更新頑張ってください!! (2018年8月14日 20時) (レス) id: a2e5a81f28 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 彩香さん» ありがとうございます(*≧∀≦*)!!がんばりますね! (2018年8月1日 9時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年7月12日 19時