今宵は月が赤いですね。光ノ章

48 ページ8

◇◆◇




『ご安心を。
お館様はお身体を第１にお考え下さい』


「…ありがとう、A」




今ここには私とお館様の2人きり。
ずっと気になっていたこと、試すなら今だ。


私の肆ノ型は他にない回復技。
転生チートならではの武器だと言える。

今のところ確認している効能は、止血と解毒。
お館様の場合は呪いだから毒とはちょっと違うけど、何か効果はあるかもしれない。




『お館様、失礼します』


「A……？」




誰かに見られたら、私は間違いなく殺される。
なんせお館様に刀を向けているんだからな。
こんなところ師範に見られたら死ねる。




『私の技をお館様に浴びせます。もしかしたら、病の進行が抑えられるかもしれません』


「…なるほど。では、お願いするよ」



『───光の呼吸 肆ノ型 夕焼け』




炭治郎の止血を手伝ったときと同様に、光の球が弾けてお館様に降り注ぐ。

この光が消えたときに何か変化が見られれば、私の技は産屋敷家の呪いにも通用する。
祈るような思いでお館様を見つめた。




『お館様、ご気分の方は…！』


「うん、こんなに心地よいのは久しぶりだよ」




火傷のように爛(ただ)れた皮膚の面積が、ほんの僅かだけ小さくなった気がする。

何よりお館様の声に更に張りが出て、顔色も良くなっていると思える。




『じゃ、じゃあ…、もっと続けたら……』


「A、もういいよ」


『え、だって、この技は呪いへの効果が…！』


「うん。でもそうすれば、未来が変わる」




お館様の死が、鬼殺隊の士気に繋がる。
最終決戦では本当にお館様の力を知らされた。

お館様の死期は前に伝えた。
それが無惨討伐に大きく貢献したことも。




「私の死が失くなれば未来が変貌してしまう」


『でも、鬼殺隊はそんな事望んでいません！』


「分かっているよ、ありがとう。
でも、やはり変えるべきではないと思うんだ」






狡い。

そんな笑顔で言われたら、何も言えない。
何もかも分かっていて、それでいて人の為に辛い道を選ぼうとしている、覚悟した表情。

そんな人間にこれ以上何が言えるんだ。




「Aには本当に感謝しているよ。
皆を、最後までよろしくね。無一郎も、他の剣士(こども)達も」




もう帰って良いと告げられ、部屋を出た。
広くて暗い廊下をゆっくりと歩いていく。


「また守れなかった」
鬼化直前の炭治郎を見てそう思った義勇さんの気持ちが、今なら本質的に分かる気がする。

49→←47

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す