【佰拾】家での一時。 ページ10
夢主side
さて、そこから実家での生活が始まった。
とっくに平隊士の頃慣れ親しんでいた生活だと言うのに、何だか妙に萎縮してしまう。
何故だか人様の家に上がり込んでしまっているみたいな感覚に、いつも首を傾げる。
そんな事、絶対に無いのに。
何となく隔絶されているような感覚に、少し寂しさを覚えたのは余談である。
けれども、日常のある一端でその原因に気が付く事が出来た。
かつてと同じように、千寿郎と料理を作っていた時のことだ。
ぱちり、と泡が弾けるような感覚と共に思わず手が止まった。
『……あ、』
千「姉上?」
……そうだ、そうだった。
…私は今、安らぎを感じているのだ。
屋敷にいる時でさえ、安らぎは無かった。
毎日のように姫柱が凸してくるし、かといって藤の家の人達に迷惑をかける訳にはいかない。
姫柱単体と言ってもそうでは無く、たまに派閥の隊士達も凸してくる。
この世界にまだインターホンは無いが、その代わりと言わんばかりに昼夜問わず扉をガンガンと叩いてくるから全くもって穏やかに眠れやしない。
他人に罪を擦り付けるや、敵前逃亡などの常習犯達のくせに行動力だけは無駄にあるようだ。
……けれど、今は、どうだろうか。
轟音に飛び起きることも無い。
飲み物に毒を仕込まれることも無い。
昼夜問わず怒鳴られることも無い。
…嗚呼、これが平穏か。
柱を引退したことに対して惜しくないと言えば嘘になる。
まだまだ戦いたかったし、せめて無限城編には参戦もしたかった。
…だが、それは自ずと私の命を削ることになる。
だからなのか。
普通の日常である筈のそれに…酷く、安らぎを感じたのは。
ポロリ、と知らず知らず暖かい液体が頬を伝って行った。
ギョッと目を見開く千寿郎の顔が、酷く愛おしくて。
千「姉上?!どうなさいましたか?!もしかして玉ねぎを……いやでも切ってない…と、とりあえず兄上ーー!!姉上が!!」
『待って、千寿郎』
グイ、と走り出そうとした千寿郎の細い腕を掴んだ。
私が鬼殺隊に入った時より遥かについている筋肉を見て、その成長を見届けられなかったことを酷く惜しく感じた。
『置いて行かないで』
息を飲む声が、した。
寂しかった、辛かった。
痛かったし、苦しかった。
迷惑をかけてしまうと思い、誰にも縋れ無かった。
だって、私は異物だから。
私だって普通の人間だ、神ではない。
いつしか、人を信じられなくなっていた。
漫画やアニメの世界でしか知らない彼らが、いつか自分を裏切るのではないかと。
……人前で泣くなんて、いつぶりだろう。
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茨の谷の第二王子 - すみませんw私あんまり優しくないのでのところでどこぞの糞カラs((ン"ン"学園長を連想してしまったw誰か僕を○してくれw (2022年2月18日 15時) (レス) @page28 id: 436e3086c5 (このIDを非表示/違反報告)
花陰 桜(プロフ) - 澪凪さん» ありがとうございます(*´ω`*)無事に治って良かったです! (2021年8月13日 18時) (レス) id: f28080f41d (このIDを非表示/違反報告)
花陰 桜(プロフ) - さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き)さん» 私も大好きです…!皆で酒盛りして欲しかった……(願望) (2021年8月13日 18時) (レス) id: f28080f41d (このIDを非表示/違反報告)
澪凪(プロフ) - 風邪治ってよかったです!!お体には気を付けてくださいね!<(_ _)> (2021年8月13日 16時) (レス) id: 279a2ef6a9 (このIDを非表示/違反報告)
さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き) - 家族思いで本当は優しい渋くてカッコいい槇寿郎さん素敵! (2021年8月13日 16時) (レス) id: c50ca7ded5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花陰 桜 | 作成日時:2021年7月24日 18時