【cs】No Smile, No Life【水鳥 リツ】

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　笑えないから、泣けないから、顔を顰めることができないから、今こうして自分は人でなく人形として扱われているのか？
　それだけじゃない。少し前までは、自分のことを不気味だと言う人間もいたじゃないか。それも表情がないからだと言うのか？
　確かにここに、感情はあるのだ。喉が締められたかのように苦しくて、頭が真っ白になって何も考えられなくて、胸がドクドクと嫌な早鐘を打っている。こんなに不快なのに、こんなに苦しいのに、指が少し震えているのに。
　少女はふらりとそこから離れて、鏡のある場所へ行く。階段の踊り場、大きい鏡。そこで自分の姿を確認して、また恐ろしくなった。
　自分の表情は、何一つだって変わっていなかった。


　怖くなって彼女とは本格的に距離を置くようになった。
　序盤こそいつもの「素直じゃない」で通そうとしていたようだが、暫くすると「わかんない。急に避けられちゃって」と悲しそうな表情をして大勢の人間に愚痴を漏らしていた。
　あの表情だって、嘘かもしれないのに。それなのに、表情の有無だけで信頼も変わるのだろうか。そんなことを考えてまた気分が悪くなった。

　高校は、少し遠いところを選んだ。知り合いが少ないだろうという、短絡的な考えだった。
　特に何も起こることなく、淡々と日々を消化した。他人と深く関わりすぎることさえなければ、まだ人として場に溶け込めると信じたくなった。
　深く関わって、人形のように扱われるのは御免だと思った。なら他人との関わりを全部絶ってしまえばいいのに、それすらもできる自信がなかった。一人で生きていくだけの、孤独感への耐久がなかった。
　そんな時だった。誰とも深く関わろうとせず、話しかけられたら受け答えをし、けれど一定の距離を置く日々を過ごしていた時、突如終末が訪れた。


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